友人A
維 黎
こだわりがえぐい
僕は友人Aにドライブに誘われ、彼が運転する車の助手席に座っていた。
「――うわっ! ここって行き止まりなのかよぉ! ブーメランしないといけないじゃん」
友人Aは車を後退させて路地から出ると、再び走り出す。
僕の友人Aは限りなく変人に近い変わり者で、変なこだわりを持っていたりする奴だ。
例えば車にカーナビがあり、目的地をセットしているのにルート案内通りに進まない、とか。だからさっきみたいに、袋小路に迷い込んだりする。
それ、なんのこだわりだよ! なんてツッコミは最近ではしなくなっていた。いちいちツッコミ入れてたらキリがない。疲れるし。
しばらく走ったあと――
「あっ! 行き過ぎてた! 戻らないと――って、この交差点、ブーメラン禁止かぁ」
友人Aは舌打ちする。
『この道を斜め右です』
『300m先、信号を左です』
『この先、右折専用レーンがあります』
などなど。
カーナビの画面を見ずに、案内もさんざん無視しておいて、行き過ぎもないもんだ――と、思っても僕は口にしなかった。
「そういえば、東京の大学に行ったBってさ。就職はこっちにしたらしいぞ。ブーメラン就職ってやつ? 今度、誘って飲みに行こうぜ」
誰だよ、Bって。僕は知らないぞ、そんな奴。ドライブと違って誘われても絶対行かないからな。
初対面の奴と気さくに飲めるほどの社交性、僕にはないから。
その後、僕たちの車はちょっとした渋滞に捕まった。
「今年の正月のさぁ、ブーメランラッシュ。すごかったんだよなぁ。43kmの渋滞だったんだぜ」
いや、友人Aよ。君の実家って確か沖縄だったよね? 車で帰省したの? 空港から君のアパートまで10kmもないし。
もちろん僕は口に出してツッコミはしない。
出会った頃の僕なら全部拾っていたかもしれないけど。
やたらとUターンのことをブーメランと言い張るところとか……。
渋滞は一過性のものだったらしく、すぐに進み始める。
ふと気になってこのドライブの目的地がどこか尋ねてみた。
友人Aのことだから、決めてないとか言いそうだけれど。
「――あぁ。『はじめ』でラーメンでも食おうかなって」
「!?」
それって最初の待ち合わせ場所にあったラーメン屋だよね!
確かチェーン店じゃないから、他になかったはず……。
ちょっと予想の斜め下を行かれたので、危うく口に出して突っ込むところだった。
まぁ、『はじめ』のラーメンは美味しいから文句はないんだけどさ。
小一時間ほど車を走らせたあと、最初に待ち合わせた街並みが見えてきた。
時刻は夕日が沈んで見えなくなったころ。
時間的にお腹の塩梅はちょうど良い頃合いだった。
結局、ブーメランして最初の場所に戻って来たわけか。
友人Aの変なこだわりに合わせて、僕がそう思った時――
『目的地周辺付近です。この先、ブーメラン禁止です。ルート案内をしゅうりょ――』
「お前もか!!!」
つい、我慢出来ずにカーナビに対してはツッコミを入れてしまった僕だった。
~追記~
『はじめ』のラーメンはやっぱり美味しかった。僕は塩。友人Aはオーソドックスに醤油。
でも食べ方はオーソドックスではなく、麺を全部食べ切るまではスープは全く飲まないという、やっぱり変なこだわりだった――
――了――
友人A 維 黎 @yuirei
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