EG

川野マグロ(マグローK)

EG

「ばあさん。今日もいい日だな」

 ズズッと茶を啜りながら今日もまたただ日が過ぎていくのを待っている。

 何もやることが無い訳では無い。

 しかし、返事も無い。

 やる理由も共に無い。

 かつては共に暮らす人が居た家も一人になっては広すぎる。

 持て余した時間と肉体とをどうしたものかと思いながら無くなった茶を継ぎ足す為に急須に手をかけたその時、

「ピンポーン」

 と音が響いた。

 どうせ町内会かと思いつつも無視することもできずに立ち上がる。

「よいこらせ」

 急かすように音は

「ピンポーン。ピンポンピピピピピピ」

 と何度も鳴らされる。

「そんなに焦らんでも。ハイハイ」

 と言いつつ出ると見覚えのある男と見覚えの無い女性と見覚えの無い少年が立っていた。

「父さん。この子を夕方まで預かっていて欲しい」

「は?」

 突然の息子の頼みにも応えたいがしかし、現実を受け入れるのにはたとえ過去に世界に、文化に改革をもたらしたエレクトリック•ジェネレーションズのリーダー。である通称EGでも頭が追いつかない。

 そう、今ではただのヨボヨボの爺さんだ。

 そしたら、息子が巣立って時が流れたと思っていたが、結婚していて自分の足で立つ子どもまでいる?

 何の連絡も無く時が流れていたことを受け入れる前に、

「じゃ、夕方また来るから」

「よろしくお願いします」

 と言って息子夫婦はどこかへ言ってしまった。

「爺ちゃん! 遊ぼ遊ぼ!」

 元気な孫、心のどこかで望んでいたはずの存在も突然だと感情も何も湧き立たないことを実感した。



 孫の相手ができることは楽しいし嬉しいことだが、しかし、

「ギャー何これ?」

「スッゲー、どうなってるの?」

 とEGの部屋に入るなり説明も待たずに触り始める。

 ヨボヨボのEGはどこからどうしたものかとアワアワするだけだかしかし、

「これ俺にも作れる?」

 の言葉にEG目を見開きニカっと笑ってみせる。

「どうしたの? 爺ちゃん?」

「作れるさ待っとけ! そこのトモちゃんと遊んどけ! その間に優しい作り方を作っちゃうわ!」

「オー! やった! なんかよくわかんないけど」

 孫の笑顔にかつて自分が重なるような気がありつつ、自分自身にかつての自分を重ね合わせ孫のさらなる笑顔の為に縁側で作業を開始する。



「トモちゃんって言うの?」

「ハイ。私はトモでス」

「スゲー! 喋った! どーなってんの?」

「そうですネ。私はあなたと同じですヨ」

「どー言うこと? どー言うこと?」

 傍で見ていても微笑ましい。EGはそう思った。

 万能マシンのつもりで作ったトモちゃんがただの子どもに対しての回答すらうまくできない。

 ワシもまだまだだった。という現実に余計に孫へのプレゼントに心踊り作業に戻る。

「ワタシハロボットダ」

「オー! やっぱりか! エイキック!」

「ウワーヤラレター」

「あっはっは! どーだー!」

「マイリマシタ」

「子分になるなら許してやってもいいぞ」

「コブンニナリマス」

「よし、子分! ついて来い!」

「ハイ」

 しかし、トモちゃんさすがの対応力でカタコトで喋り孫の気持ちをシッカリキャッチ。家の短剣を始めたところで必要となりそうな物をガタゴトと漁り始めるEG。



「ピーンポーン」

 とまたも来訪者。

 せっかくの作業を中断し、

「今日は客が多いなぁ」

 なんてぼやく。

「悪かったな」

「アンタわ!」

 やってきたのはエレクトリック•ジェネレーションズ時代の相棒。

「ガッチャンコガッチャンコと聞こえたら来ない訳には行かないじゃん?」

 そういう今でも隣人の彼はEGと同じように目を子どものように輝かせている。

「手伝っちゃうぜ」

「ありがてぇ」



 だが、しかし、

「そこはそうじゃねぇっつってんだろ!」

「いいんだよこれで! わかってないな」

「ハッEGも今じゃこれか!」

「な、ナニー!」

 頭突き合わせて大声の怒鳴り合い。

 タイミング悪く、

「アッアッうぇえええええん!」

 迫力に圧倒された孫は泣き出した。

「アワワワワワ」

 とトモちゃんもカタコトのまま、困った様子。

「すまねぇ」

「いや、いいや」

「そうはいかねぇ、今日は帰らせてもらうわ」

「そうか、またな」

「ああ」

 相棒は帰り、孫は泣き止む。



 そして、夕方。

 息子夫婦はしっかりと家にやってきた。

「今日はありがとう」

 という息子の言葉に面倒はほとんどトモちゃんが見ていた。なんて口が裂けても言えず頷く事しかできない。

「これ、よろしければ」

 と大好きな饅頭を受け取るもクールであるため頷くことしかできない。

「今日は本当にありがとう」

「いや、いいんだよ」

 そこで初めて声を出し手を振って小さくなる背中を見た。

「爺ちゃん! また来るから!」

 という孫の声が何よりも嬉しかった。



 しっかりと、孫はEGのもとを訪れるようになった。

 その内EGのサポート無しでも興味の物は作るようになった。



 そして、ある夏。

「お爺ちゃん。俺、お爺ちゃんが作ってくれた設計図におもちゃ嬉しかった。お爺ちゃんのおかげで好奇心を大切にここまで来られたよ」

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EG 川野マグロ(マグローK) @magurok

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