Uターンジャンプキャットパンチッ!!
タカナシ
シャム猫は優雅に眠りたい。
うっすらと窓から朝日が差し込む。
まるで、その刻を待っていたかのように、もそりと動き出す小さな影があった。
「あの下僕はまだのようね。まったく寝坊助なんだから」
小さな影は少しの間、丸まって待つと、カチリと何かのスイッチが入る音がした。
「ふぅ~、やれやれだわ。ようやくコタツのスイッチを入れたわね」
小さな影は朝日の光があたる居間にまで足をのばす。
日の光に照らされたその姿は、シャム猫。
白に近いグレーの特徴的な毛色。しかし、顔と尾は黒に近い色をしている。
すっきりとした顔立ちに、すらりとした四肢、長く美しい尻尾。どれをとっても美しさを全面に表しているが、一番のチャームポイントはサファイアブルーの瞳。
かつて王室や貴族のみが飼うことを許された猫種であり、飼い主を下僕という性格は先祖代々のもののようだ。
シャム猫は、しっぽを立ててコタツへと向かう。
大きくそびえ立つふかふかのコタツ布団、その中は常に温かで静かな楽園が広がる。
シャム猫にとっては、朝日が昇り、下僕がスイッチを入れ温かくなったコタツで寝るのが至福の時だった。
しかし、その最高のコタツを邪魔するものがっ!
「もうっ! あの下僕めっ! 昨日あれだけどけてって言ったのに、また置いてあるわっ!!」
シャム猫が目にしたのは、コタツの相方ともいえる存在。
カゴに入った大量のミカンだった。
「あれの臭い嫌いなのにっ!! せっかく気持ちよく寝てても、ふとした瞬間に、あのなんともいえないツンとした臭いが嫌なのイヤイヤなのっ!」
シャム猫はぴょんとコタツの上に乗ると、ミカンの入ったカゴを押した。
「にゃにゃにゃにゃ~~。お~も~い~。あっ!」
ぐっと力を込めすぎ、シャム猫特有の鋭い爪がミカンに突き刺さる。
ぷしゅ!
「にゃ~~、汁がぁ、汁が目にぃぃぃぃぃぃ!! 臭い、痛い、にゃああああっ!」
バタバタと転がって、コタツから落ちる。
「にゃんで、アタシがこんな目にぃ」
クシクシと前足で顔を拭う。
目の痛みと臭いが取れると、キッとミカンを睨む。
「下僕にはあとでキツく言うとして、まずはあれをどうにかするのが優先ね」
シャム猫は助走が取れそうな場所を見つけると、トコトコと歩き、ミカンから目いっぱい距離を取ってから、走り出した。
「これでぇ!!」
ジャンプし、ミカンのカゴに前足を押し付け、落とそうとする。
「にゃ、にゃんですとっ!?」
大量のミカンが入ったカゴは少し動いただけで、コタツから動かすことは適わなかった。
シャム猫は少し考えてから、コタツから降りた。
「今のアタシのパワーは100にゃんパワー。助走をつければプラス100にゃんパワーってところね。ならっ!!」
シャム猫はコタツと反対方向へ走る。
壁にぶつかるというところで、Uターン。
「Uターンで助走距離を倍にすればパワーも倍の200にゃんパワープラスっ! いつもの倍の高さジャンプすることでさらに200にゃんパワープラス。合計500にゃんパワーよ! 喰らえっ!! Uターンジャンプキャットパンチッ!!」
シャム猫の一撃はミカンのカゴを吹き飛ばし、カゴもミカンもコロコロと転がり、コタツから離れていく。
「やったわっ!! これで臭いもせずに寝られるわ!」
シャム猫は、もそもそとコタツ布団を持ち上げ、中に入ろうとすると。
「なっ!! おのれ、下僕。わざわざミカンを拾って持ってくるなんて! ふざけるんじゃないわよっ!!」
シャム猫は、飼い主に噛みつき、引っ掻く。
「痛いっ! 痛いっ!! どうしたって言うのさっ! ご飯は向こうに用意したし、コタツのスイッチも入れたし、何が不満なのっ!?」
飼い主もとい下僕は叫び声を上げると同時にミカンが一つ落ちる。
「フゥーーッ!!」
毛を逆立て、ミカンを威嚇する、飼い猫の姿を見て、全てを察した飼い主はミカンを全て持って台所に下げた。
「ふぅ。これでようやく安眠できそうね。でも、こんなことなら、最初から下僕を動かせば簡単だったわね」
日が上がり、陽気も良くなって来た中、シャム猫は満足気に、コタツの中で丸くなって、スヤスヤと寝息を立て始めた。
Uターンジャンプキャットパンチッ!! タカナシ @takanashi30
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