Uタァン……
杜侍音
Uタァン……
うんち行きたい。
凄く行きたい。果てしなく行きたい。
あいつがお尻の穴から『こんにちは』って顔を出しそうだ。
俺は学校での授業を終え、帰宅の途に着いてたところだった。その下校中に腹を下してしまったのだ。犯人は変な臭い発してた弁当に違いない。
今ここでUターンして学校に戻ればいい。しかし、学校と駅のちょうど中間地点に俺はいる。学校に戻るくらいのであれば、駅のトイレを使えばいいのでは……?
否!
学校の最寄り駅であるトイレはお世辞使っても汚いの一言で済ませられるくらい、ただただ汚いのだ。芳香剤も置いていないから夏の弁当箱みたいに臭いし。
では、Uターンして学校のトイレで済ませるか……。
嫌!
学校の人に「え、あいつうんこ行ってね? うんこ行ってんじゃね? もはやあいつうんこじゃね?」ってなったらどうする!
そこから始まるイジメだってあるんだ。友達がいない俺にとっては、こうなるリスクは意地でも避けたい。
仕方ない、ここは我慢して駅まで耐え抜こう。
駅着いた。
『トイレ改装中』
なんでだぁぁぁああああ!!!!
最新のトイレに改装してくれるのは嬉しいが、何でそれが今なんだ。ていうか、こんな歩いて20分の距離に高校しかない田舎駅に綺麗なトイレの需要なんて特にないだろ!
それに冷静に考えてみりゃ、今部活中なんだから生徒と
くそ、二択を間違えた……くそって思ったらお腹が余計に痛くなったな。
ここは引き返して学校に……。
いや、電車がもうすぐ来るようだ。電車で二駅行った先が家の最寄り駅かつ終点だ。運行時間は7分。うん、こっちの方が早い。そこまで行けばトイレはわんさかあるだろう。
よし乗ろう。
電車に乗った。動き出すも、慣性の法則で俺の腹の中にいるうんこは抗ってしまい、腹を刺激する。
「はうっ!?」
電車の中で奇妙な悲鳴をあげてしまった。
あ、斜向かいに座っている同じ高校の女子がこっち見た。絶対気持ち悪いと思っただろ……やっぱりこのまま帰りてぇ……いや学校に戻りたい、いややっぱり家に帰りたい……。恥ずかしい……。
……これ、ちょっと空気がお腹に溜まってるから圧迫されて痛いのではないだろうか。少し空気を放出するか、つまり放屁、すかしっ屁なんだけど。
……ん、え、今出た? あれ身が出た? すげぇ、嫌な感覚なんだけど。大丈夫? え、大丈夫?
「ん、っん!!」
隣のオッサンがスゲェ咳込んだ。
これって俺の屁の臭い? いや身の臭い? どっちでもない? どっちでもある??
ダメだ、さっきからクエスチョンマークしか出てこない。嫌なこと考えるな。楽しいこと考えよう! エクスクラメーションマークしか出さないようにしようぜ!
そうこうしてる内にいつの間にか終点に着いた。
さて遠慮なく駅のトイレ、いや、これは近くの商業施設のトイレの方が綺麗だからそっちに行くか。今、全然痛くないし。
……おや。痛くない。腹のあいつどこ行った? え、自然消滅した?
とにもかくにも全くうんち出る気しねぇ! こんなにも身体は軽いのか……!
うん、超腸の調子いいし、このまま家に帰ろう。自転車でピューと風を掻き分けて帰ろう。
あははははー! 俺は自由だぁ!
◇ ◇ ◇
うんこ行きたい。死ぬほど行きたい。
何だったんだよ、あの束の間の休息は! 油断させやがって、さっきより行きたいよ? 俺のケツがうんこの爆心地になるよ?
ひとまずサドルで無理やり外界から押さえ込んでいるから出ずに済んでいるが……
「はうっ!?」
舗装されてない道路が出ている段差で、ケツが刺激されて危うく誤爆するとこだった。
これは戻って駅のトイレに行くか……? 今ならUターンした方が近い。駅から家まで4割地点にいるからな……。
否!
これは戻ってはダメだ。俺の家はずっと坂の下にある。つまり、駅に戻ろうとすると上り坂を上らねばなるまい。
そんなことしてみろ。立ち漕ぎした瞬間にパンツの中が大惨事になる。
これはタイヤが転がるままに行くしかない。
そして、この選択は正解だった。
無事に家に着いたのだ。
やった……もうすぐ解放されるんだ……。鍵で家の扉を開け──鍵がねぇ!?
え、落とした……? いや、そんなはずはない。落としたらさすがに気付く。ポケットの中に入れていたはずだ……いや待てよ、カバンの中に入れたか? それとも財布とか別のとこに?
俺は鍵閉めてどこに──あれ、今日鍵閉めたっけ?
扉に手をかけると開いた。
鍵閉めてねぇのか。
まぁいい!! トイレだ! トイレが俺を待っている!!!
やっほー! 勢いのままに一階のトイレのドアに手をかけると開かない。やっほー!
開いてねぇ!?
「誰? お兄ちゃん?」
「お、おおおおお妹かっっ」
「は? ちょっと入ってるんだけど、キモ」
「早く出ろおぉぉい!」
「は?」
「いいから!!!!」
「何指図してんの? 上行けば?」
ああああああ、そうかぁぁ。二階もあったね、でももうお腹が限界なんだよぉぉ。
妹が出るなんて待ってられない。俺は一歩一歩階段を上る。
こんなにも家の階段上るのに辛いことなんてあっただろうか。いやない。十三階段のように重く苦しい。腸が超重くてね、あ、いや死ぬわけじゃないよ、死ぬって社会的に死ぬだから、つまりうんこ漏らしてるよな、そんなことはない。うん、ちゃんとこれ行けるから。うん。こんな馬鹿みたいな最悪のシチュエーションを思い浮かべるな、浮かべたら負けだぞ俺ぇ!
そして、俺は……とうとう辿り着いたのだ。ちゃんと中に人はいない。
俺はこの戦争に勝ったのだ!!
ズボンを下ろし、パンツも下ろして座り、ここまで頑張ってくれた肛門括約筋の力を緩め、腹の中にいたあいつを外出させた……「行ってらっしゃい」ってね。
『行ってきます』のあいつの雄叫びと共に、俺は存分に出した。
……ん? 無事にしたはずなのに、なんだこのケツの違和感。あと、臭くない? ケツがぬちゃってしない?
俺は自分の座ったところを見る。
便器の蓋が開いていない。
あれ、てことは俺どこにした……。
ああ……あああああああああぁぁぁあああああああああああああああぁぁあああああああああああああああああぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ
「お兄ちゃんうるさい!!」
Uタァン…… 杜侍音 @nekousagi
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