第3話 条件

昼下がり、屯所内には新たな設備が出来ていた。


そこに少女は数メートル離れた的に弓矢を構えた。弦を引き、呼吸を整えた後、ゆっくりと手を離した。すると矢は的を大きくそれ、白い壁に突き刺さる。落胆した少女は床に大の字に寝そべる。


「あぁぁあ!!!全然当たらないぃー!」


するとそれを見ていた近藤がはははつと大きな声で笑う。


「自分から弓矢をやりたいといった割には、梶さんは弓のセンスがないなぁ」


少女は飛び起きると、近藤を見て口を開けた。


「局長だって...」


と言葉を言いかけると、近藤は


「その調子だと、また歳に怒られるぞ」


と彼女をはやし立てるように笑いかけた


昨夜、総司との激しい対決の末に少女は勝利し、隊士達に入隊を認められた。土方は彼女の元に行き


「お前が総司と戦う前に、勝ったら叶えて欲しい条件があると言っていたな?望みを聞こう。なんだ?」


と聞いた。彼女はニヤリと笑うと


「弓矢が欲しい」


と言う。隊士達は首を傾げた。新選組の行う業務は、浪士との斬り合いが殆どの為、弓矢での戦闘は必要なかった。土方は首を傾げながら彼女に問いた


「購入はみとめるが、いつ使うんだ?」


彼女は自分の服に手を当てた


「見ての通り僕は女だ。


でも新選組に女隊士がいると噂されれば、世間は新選組を女、子ども関係なく汚れ仕事をさせる組織だと思われてしまう…


だから遠征で戦う時や、突撃したては、僕は遠望射撃で敵を狙い打つ。


そして騒ぎが大きくなり、戦いが激しくなった隙を見て、僕が加勢に入る。」


近藤は、その言葉を聞くと納得したのか、首を縦に振った。しかし土方は首を横に振りながら、眉をひそめ彼女の言葉に口を出した。


「その意見は通そうと思う。」


彼女は土方の表情も見ずにありがとうと笑顔で言うと、被さるように


「だが、お前にもうひとつ条件を言うのを忘れていた…」


土方は懐から巻物を取り出し、彼女に渡した。


「初めから考えていたんだが、お前の言葉使いには見るに堪えない所がある。武の心得がない以上、仕方の無いことだと思う。しかし隊士になったからには、お前にもそれ相応の態度が必要だ…なので!」


土方は竹刀を床から取ると、彼女に剣先を向ける。


「本日からひと月、お前には武士の何たるかを幹部付き添いの元、叩きつけてやる!!」


彼女は真っ青な顔になると、手を後ろについてたじろぐ。


「まずはお前のその言葉使いからだぁ!


昨夜の事を思い出すと、大きな溜め息を着いた。


「本っ当にあの副長は男女関係なくスパルタなんだからァ!!」


近藤は、スパルタという言葉を聞いては首をかしげながらも、はははと笑う。


彼女が弓矢に手をかけ、矢をゆっくりと引く。その姿を後ろで見ていた近藤は先程までの暖かな笑みが消え、すっと冷徹な目をして、冷たい口調でこう告げた。



「君は何者なんだ…?」


冷たい風が矢を乗せて、的をつく。彼女は近藤の方を見ると薄ら笑みを向けた



「…昨日も言ったでしょ?僕は梶 夏希。未来からきた人間だよ。」




近藤は自分の懐にある梶の小太刀を取る。




「昨日の騒ぎでまだ君からこの謎を説明されていない…」












「この小太刀はなぜ血を浴びていない…?」






近藤の問いを聞いた梶は、表情を変えないまま、弦に手をかけ、矢を放った。




「みんなが"鬼の副長"と土方さんの方が怖いイメージで話すけど、僕にとっては君の方が黒いものを感じるよ。」




梶はその問いに答える様子は全くなく、それどころか局長である近藤の言葉に不信感を投げかけた。梶が次の言葉を発っしようとした時。総司が練習場に足を運んだ。


「近藤さん。どーですか?その子の弓の出来は」


そう言うと、的の方に目を向けた。壁に刺さった残がい達を見ては呆れた顔で梶を見た。


「君…もしかして暗殺以外はからっきしなんじゃ…」


総司は横目で梶をみる。梶は冷や汗をかきながら、的をゆびさす。


「大丈夫です!隊長!ちゃんと2本は当たってます!」


総司は大きく溜め息を着くと、彼女に向き合う。


「本当に君こんなんで弓をするって言ったの?他の隊士にも迷惑がかかったらどーするの?」


梶は冷ややかな目で見つめる総司にムッと口を瞑る。そして立ち上がり、自分の胸に拳を当てると、大きな声で叫んだ。


「今は戦力にはならないと思います。実戦で使うと他の隊士にも迷惑がかかりますので、とてもじゃありませんが使えません。しかし!僕は何としてでもひと月で百発百中にしてみせます!そして、この新選組の大きな戦力になることを誓います!」


総司はその言葉を聞いて、彼女のその姿勢を見ては眉をひそめると、矢を渡す。


「そんなに言うなら、ひと月待ってあげる。でも、それまでに出来なきゃ、俺も黙ってはいられないよ。」


梶は総司の言葉を聞いては心が暖かな気持ちが溢れ、自然と笑みがこぼれる。総司の言葉に首を縦に振る。


そこに1番隊隊士が慌てた様子で練習場の扉を思いっきり開けた。




「局長!隊長!古高が、情報を吐きました…!」

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