守りたいものは

絶耐糖度

守りたいものは

 今ならまだ引き返せるかもしれない。でも......。


 そう何度も思ったけど、実行なんてしなかった。それを悔んでなんかいない。今更考えても仕方がない。



 「星哭ほしなきさん、サブコン落ちます!」


 喧騒、私の研究室は今、何者かに襲撃されている。研究資料の盗難なんて、そんなのはもんだいじゃない。今ここで研究をとられたら、やつらは全てを隠蔽したままになってしまう。私は地球を救わなきゃいけない。大げさかもしれないが、これをしっていてこちら側に付けるものはあまりいないから。


 「第二、第三隔壁も耐えられません。脱出しますか?」


 部下の渡邉が聞いてくる。が、だからこそ私がやらなきゃならない。部下たちが総出で食い止めようとしているが、私たちはただの科学者でしかなくて、戦うすべがない。


 「いいえ、あなたたちは早く逃げて。私はここに残るわ。これは私の研究だもの、置いてなんか行けない。それに、このままじゃ地球が危ない。私は残ってやつらを食い止める。その間にあなた達は研究を進めて公開して」


 「しかし......」


 私はもう引き返せないところまで来てしまった。私たちの研究が暗部の陰謀をさらけ出すことになるらしい。幸いなのは狙われているのが今は私一人ってこと。よかった。最後に娘に、夫に、地球の未来を託せて。


 「みんな、早く!」


 ビュウウゥゥン。ビビ。銃声が聞こえる。もうこの研究所は使えない。


 「さあ!はやく行って。そしてこのことを信頼できる人に伝えて。地球の仲間に、後を継いでもらうのよ。」


 「すみません、先に行きます。でも必ず所長が守ろうとした地球を、やつらに渡しはしません。我々が、地球を救うのです。」


 「よろしくね。それと私は事故死ってことにしておいて。あの人や娘を巻き込むわけにはいかないから。」


 「わかりました。もう私たち以外は脱出しています。星哭さん、あなたも一緒に逃げましょう。まだ間に合います。」 


 渡邉が私の腕を引いて脱出口へ連れて行こうとする。その手をつかんで。


 「私はギリギリまで粘ってこちらの情報を守る。私たちがここまで来ていると知ったら、やつらはすぐにでも計画を実行しかねない。逃げられちゃったら元も子もないからね。」


 「わかりました。でも一番奥の部屋のアブソルームにしてください。あそこなら気づかれずにやり通せるかもしれません。後で迎えに来るんでそれまで生きててください。」


 確かにあそこなら絶対防護機能が働く、でもさすがにやつらには対抗できないことはわかっている。でも......。


 「わかったわ。あなたももう逃げなさい。」



 こんなことになるなんて。予想をしていなかったといえば嘘になる。でもここまで早く、しかも昼間にいきなり全面戦闘をけしかけてくるとは。正直ぬかったとおもうしかない。


 でもこれでどうにか仲間は全員逃がした。たとえ私がここで消されようとも、やつらに対抗する為の研究はそろそろ大詰めにかかっている。このままいけば、地球は守られる。なんとしてでも守らなければならない。


 「ここまで来るのにどれくらいの時間が残されているかしらね。」


 早速作業に取り掛かる。マスターを試行し、全てのデータにアクセスする。この最後の物だけでも消さなくては。守るためにやつらの悪事を暴いて、逆に煽ってはならない。それこそ最悪の結果だ。


 ~


 足音が聞こえる。もうきてしまったか。でも、証拠は残っていない。やつらに見つかっても、殺されるだけ。初めからそういう覚悟でやっていたのに、いつの間にか死にたくなくなっていた。


 あの頃は、能力だけで私を見る周囲が嫌いだった。でも私が好きだった自然を守りたかったから、この計画に賛同した。それからあの人に出会い、結婚して、娘も産んだ。守るものが増えてしまった。


  もう今更引き返せない。私は、もう役目を終えたのだから。全てを託したあの子を、仲間に守ってももらえる。あと数年もしたら、やつらは悪事を暴かれ引きずりおろされているだろう。


 あとは、


 「よろしくね、希望。」



 「こっち来いよ、ここ何かないか?」


 男が壁を蹴る。ほかの場所と比べて音が違う。


 「ん?ほんとだな、これは隠し扉か。こざかしいことしてくれちゃって。」


 パシュンッ。パシュンッ。


 「流石に撃ったくらいじゃ壊れねえか。離れてろ、Dボムつかうぞ。」


 イィィィィ、カッ。ュン。


 ~


 ビュン。音。衝撃。熱。


 「いっ、ああああ!」


 「ふんっ、うるせえな!おとなしくしろ。」


 撃たれた。こんな痛みなのか。出産と変わらない。


 男たちが近寄ってくる。


 「おい、連絡しとけ。一人見つけたと。」


 そう言って、男は持っていたリュックから注射器を取り出した。私の腕を掴んで、雑に刺した。


 「な、なにを......。うぅ。」


 どさっ。


 ______。

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