つぎこい祭り
天音 花香
第1話
『振られた』
私はLINEで仲のいい友人たちに送った。どうせ皆んな、「やっぱり?!」という反応なのは分かっている。でも悔しい。
「せっかく付き合ってもらえたのにな」
私は涙と一緒に出てきた鼻をかむ。
佐野先輩とは吹奏楽部で同じフルートパートだった。優しく教えてくださる先輩に簡単に恋に落ちて、先輩の卒業式にダメ元で告白をしたらなんとオッケー。ところが先輩は県外の大学を受けられていて、合格されたために一週間で遠距離恋愛に。
「でも好きだから頑張ったのに」
ぽろぽろととめどなく涙が落ちる。再びティッシュで涙と鼻水を拭った。
頑張る方向性が間違っていると友人たちによく言われてきた。ただ、今回は遠恋の末に結婚した母にアドバイスをもらったんだけどな。母のアドバイスは、「遠距離恋愛は連絡をまめにとらないと上手くいかないわよ」だった。だから、毎朝昼晩、用がなくてもLINEをした。その結果が、「那奈は重い。そんなに返事は返せない。僕たちは合わないみたいだ」なんていうメッセージだなんて。
「返事をせかしたことは一度もないのに。ふえぇん」
ついに声を上げて泣いてしまった時、LINEのメッセージを告げる音がした。
もしかしたら、先輩かもしれない。さっきはごめんって。
急いで確認すると、
『明日、桃香の家に13時集合!』
と貴史からだった。明日は日曜日。きっと目は腫れてるだろうし、どこにも行きたくない。
ピロリン♪
『那奈、必ず来ること』
私の気持ちを読んだように追い討ちのメッセがきた。私はブー! と音が出るくらいに鼻をかんだ。
分かりましたよ。どうせ励ますフリして、私を弄るつもりだろうけど、報告したのは私だし、行きますよ。
***
桃香の家はお金持ちで、彼女の部屋は八畳もある。両親も煩くないし、友人たちで集まる時は桃香の部屋が定番になっていた。
インターホンを押すと、桃香のお母さんが出て、私を家に入れてくれた。
「皆んなお待ちかねよ」
桃香のお母さんは二階の桃香の部屋へ上がるように言った。私は階段を上って、桃香の部屋のドアをノックしてドアノブを回す。一歩入った瞬間に、パパーン!!とクラッカーの音がして、飛び出したカラフルな紙が私の頭に降り注いだ。部屋には輪飾りまでしてあった。まるでお祭りだ。
「那奈、失恋、残念!!」
皆んなは口々に言ったけれど、残念だったらこんなクラッカーなんて鳴らさないよね?!
「もー、何これ〜! 私、めちゃ落ち込んでるんだけど。何の嫌がらせなの〜?!」
頭に引っかかった色付きの紙を手で払いながら私が抗議すると、
「暗いよりかは明るい方がいいでしょ」
と悪びれてない友人たち。
「まあまあ、今日は花乃がシフォンケーキ焼いてきてくれたんだよ。食べよう」
私はなんだか馬鹿らしくなって、シフォンケーキにフォークをいれた。
「敗因は何ですか?」
真也がいきなり本題をついてきた。
「遠距離だったからだよ」
私の答えに、「だろうね」と皆んな納得している。
「だから遠くより近場にしろって言ったよな」
貴史が真っ直ぐに私を見て言った。
「そんなこと言われたって、好きな人が遠くに行ったんだから仕方ないじゃん」
私はシフォンケーキを口に入れて、
「あ、美味し」
と声に出した。紅茶の味のシフォンケーキは口に入れるとふんわりと甘くて軽く、舌の上ですぐになくなって、紅茶の香りだけが残った。甘いシフォンケーキに勇気をもらって、
「私ね、重いんだってさ。私は頑張ってメッセ送っただけなのに」
と報告した。
「あー、送りすぎちゃったパターンね」
「そもそも、メッセージって頑張って送るものなの? 那奈も無理してたんじゃないの?」
花乃の言葉に、
「そう、なのかな? 無理してたのかな、私」
好きだから、関係を続けたくて頑張るのは、無理してるってことになるのかな。分からない。でも、段々LINEの話題がなくなっていって、疲れたと思うことはあった。
「無理してると疲れちゃうから、長続きしなくて当然だよ」
「やっぱり気の許せる関係がいいな」
「そうそう。那奈は先輩のことしか見えてなかったみたいだけど」
「近くにいい人いるよね〜」
んん? なんか話が変な方向に流れていってる。私が戸惑っていると、貴史が私の前に出た。その途端、他の三人は口を閉じて、祈るような目で私と貴史を見た。
え? 何?
「俺、那奈が好きだ。遠くじゃなくて近くを見ろよ」
私は一瞬絶句した。急に心臓がどきどき言い始める。
な、何が起こってるの?!
「……えーっと、これ、失恋を慰める会じゃなかったの?」
口から出たのはそんな言葉だった。
貴史が私を好き?! そんなことって……。
でも、明らかに私以外は貴史が告白するのを知っていた感じだ。
「ううん。この会は失恋祭りじゃなくて、次来い祭り≪次恋祭り≫なんだよ!」
桃香が言った。
「つぎこい祭り? 何それ!」
私が目を瞬かせると、
「おいおい、俺の告白への返事は?」
と貴史が困ったように言った。
私は貴史をじっと見つめた。高校生になってから一年、この四人と過ごしてきた。中でも貴史は男子なのになんでも話せちゃう得難い親友だと思う。
「ありがとう。貴史のこと、考えてみる。まだ失恋したばかりだし、貴史は今まで近くにいすぎて異性として見たことなかったから……だから、これから男性として見るね」
今はこれが精一杯。
「脈はアリってことでいいのか?」
貴史の言葉に、他の三人が一緒になって私を見つめる。皆んなの前で言うのは恥ずかしいけど、私は、
「うん。あると思う」
と答えた。
「「やったー!」」
桃香と花乃は手を取り合い、貴史と真也はハイタッチをして大はしゃぎ。
私はこの四人のおかげで、あれだけ辛かった失恋の悲しみが一気に薄れるのを感じた。来る前は乗り気じゃなかったけど、来て良かった! つぎこい祭り!
高校二年の夏、私は貴史と付き合い始めることになる。次恋祭りは大成功だったわけだ。
了
つぎこい祭り 天音 花香 @hanaka-amane
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます