裸祭り

《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ

最低で最悪で……な祭り

202X年、世界は菌の脅威にさらされた!!



社会は荒れ、経済は裂け……。



あらゆる生命体が絶望したかに見えた……。



だが……。



人類は諦めていなかった!!






「ここに!筋肉裸祭りを開催する!!」

『マッソォォォォォォォォウ!!』


どうも皆さん、隆司たかしです。現在俺は幼馴染であり隣人でもある恵美えみと共に、近所の神社にやってきております。


目の前には褌一丁の筋肉の塊がゴーロゴロ。

視界いっぱいの暴力に俺の目が張り裂け失明しそうです。


「凄いね、隆司。私こんなに逞しい裸祭り、初めて見たよ」

「俺だって初めてだよ……」


どうしてこのような状況になったのか。


もともとこの神社では裸祭りなどやっていないし、この寒い季節に祭り自体存在しない。


だがインフルエンザを始めとしたウィルスの影響で、外出そのものが減り、室内で過ごすことによる運動不足や、ストレスを溜め体調を崩すといった現象が発生した。


そんなときだった、ある者達が立ち上がった。


『病は気から!ならば病に苦しむ今このときこそ、我らが魂の輝きを見せるとき!!』


そう、何を隠そう筋肉マッスル達である。


彼らは一致団結し、自らの健康美を見せることで、地域を活気づけようとしているのだ。


こら、そこの君。言いたいことは分かるがそんな目をするんじゃない。こんな時期に濃厚接触しそうな危ない行事をするんじゃないと言うことには同意するが、彼らとてちゃんと対策はしてある。咳をする者や病気の疑いが

ある者は参加はもちろん、観戦もできない。


それでも感染は心配ではあるが……彼らの筋肉を信じよう。それに今更彼らを止めようとしたところで、彼らなら強引にでもやるだろう。


「さて、本来の裸祭りなら宝木しんぎを奪い合うものだが……濃厚接触を避けるため、今回は筋肉マッスルパフォーマンスを行う!!」

『マッソォォォォォォォォ!!』


筋肉マッスルパフォーマンスってなんぞ。


筋肉マッスルパフォーマンス……!まさか……」

「知ってるのか、恵美!」

「うん、知らないよもちろん」

「知らんのかい!じゃあなんで知ってるみたいな反応した!?」

「ノリだよ隆司」

「もう俺、帰っていい?」

「駄目だよ隆司。せっかく出てきたのに何もせずに戻るなんてもったいないよ。隆司だって目の前の筋肉に元気もらえるでしょ?」

「元気をもらう前に現実から目を反らしたくなるんだが?」

「耐えるんだ隆司。今日を頑張った者……今日を頑張り始めた者にのみ……明日が来るんだよ……!」

「それっぽいこと言っても駄目だかんな!?というか色々な意味でやべぇ台詞吐いてんじゃねぇ!!」

「まったく、つれないな。いいじゃん、せっかく外に出たんだし。祭りを楽しもうよ」

「楽しむならせめて屋台にしてくれ……」


目の前で汗をかきながらポージングする野郎を見る祭りなんて、俺はごめんだ。



かつ、かつ、かつ。


「……ん?ねぇ隆司、あれって」

「あぁ?」


恵美の声につられ視線を向けると、逞しい男がこちらへと歩いてくる。


「君は……隆司・ブランドーだね?」

「そういう君は、いつき・ジョースター」

「何言ってんの二人とも」


すまん恵美、相手がふざけるからつい。だからそんな冷たい目を向けるな。ムスプルヘイムがニブルヘイムになっちまう。


こいつは樹。俺と恵美のもう一人の幼馴染であり、中学までは一緒の学校に通っていた友人だ。今は別の高校に行っているため、最近は出会う機会もなかった。


「冗談はさておき、久し振りだな隆司。恵美さんも」

「やっほー、樹君。しばらく会わない間に随分見違えるような姿になったね」

「お前、どうしたんだよその身体?前までは俺と同じもやしだったのに」

「俺はもやしを辞めたんだよ隆司、俺はもやしを超越したんだ」


分からん、こいつの言ってることがさっぱり分からん。


「おー、筋肉カッチカチだね。文学系キャラの面影はどこに?」

「ふふ、端的に言えばR○ZAPの力だよ。人間努力すれば何にでもなれるさ」

「お前、あんだけ筋肉陽キャ嫌ってたのにな」

「考えも変われば、人も変わるさ。俺だって、モテたいんだ!もやし陰キャよりは筋肉陽キャのほうがモテやすい(統計)。だからイメチェンしたんだ。さすがに彼等みたいな筋肉達磨になるのは嫌だけど」

「理由が不純すぎる……」

「そう?私は変わろうとするのは良いことだと思うけど。前向きに何かをする人は格好いいよ」

「恵美さんは相変わらずだね。その性格は好ましいよ」

「ありがとう樹君。それで、どうしたの?何か用事?」

「ああ、もちろん」


用事?単に知り合いを見つけたから寄ってきただけかと思ったけど。……ん?なんだ樹、その自信に溢れた笑みは?


「隆司、一緒に裸祭りに出ない」

「断る」

「……まだ言い切ってないよ」

「お前、正気か?こんなもやし捕まえてあろうことかあの筋肉集団に混ざれと?一瞬で挽肉になるわ」

「ベンチプレスの隆司……ぷっ」


おい恵美、後で説教な。俺だって気にしてんだよ一応。


「そもそも、祭りはもう始まったろうが」

「途中参加も可能なんだよ。本来の裸祭りとは異なるからね」

「俺は褌なんて持ってない」

「神社で借りれるよ」

「参加するメリットがない」

「恵美さんに良いとこ見せられるかもよ?」


こんなもやし体型でどう見せると?


「私、見たいなぁ。隆司の頑張るところ」

「たーかしの!ちょっと良いとこ見てみたい!あそれ!」

『筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!』

「やめろやめろ!そのうざいコールをやめろ!」

「いいじゃん減るもんじゃ無し」

「俺の心がゴリゴリ削れるんだが?」

「まぁまぁ、気分転換に参加してみようよ?存外、いい気分になれるかもよ」


はぁ……仕方ねぇなぁ。もうこうなったら自棄やけだ。どうにでもなれい!






「おぉっと!ここにきてまさかの無謀なチャレンジャーの登場だ!こんなドギつい寒さの真っ只中、そんなヒョロい姿で来るなんざイカれてんのか!?大したガッツ!!ぜひその勇姿を見届けてやろうぜ野郎ども!!」

『マッソォォォォォォォォ!!』

「寒寒寒寒寒寒寒寒寒寒寒!!」





その後、気付けば全ての行事は終了し、俺の身体は汗だくになっていた。


思い出せることは、ただ周りの鬱陶しいくらい熱いやつらと共に、様にならないポージングやら、掛け声という名のヤケクソな奇声をあげていたことくらいだ。


……まぁ、どいつもこいつも笑顔だったことだし、良しとするか。恥ずかしいなんざ今更だ。樹の言うとおり、まあ確かに、気分も幾分か晴れたしな。


そんで、恵美はというと。


「やっぱり似合わないよねぇ」


などと笑いながら、タオルを差し出してきた。


「うるせぇよ、そんなこと俺が一番分かってるわ」

「もう、すぐに拗ねるんだから」

「拗ねてない」

「拗ねてる」

「拗ねてない」

「拗ねてる。……ふふ、頑固なやつめ」


そう言って笑う恵美の、まるで愛しい者を見るかの様なやわらかい瞳に、顔が火照る。


「次に見る機会があるなら、ぜひ様になる姿を見てみたいなぁ、隆司?」

「……もう参加する気なんざないぞ」

「ぶー、けちー」

「……でもまあ」








気になる相手の、こんな顔が見られるなら。






たまにはこういう祭りも悪くないかもな。

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