ソウタとハルトの家冒険
静嶺 伊寿実
やさしい暗号
『ゲームき は あずかった。このあんごうを といて ゲームの ありかを さがし出せ』
小学三年生の
公園は他に遊んでいる人もおらず、
それなのに、そのゲーム機が無くなった。
手洗いうがいを済ませた
「おいえおうえ? お兄ちゃんこれなあに?」
「僕だってわかんないよー。お父さん、これなんて読むの」
「どうした?」
「ゲーム機がここにあるらしいんだけど、これ意味わかんないよ」
「それは大変だね。んー、お父さんもはっきりとは言えないけど、
「文字?」
「例えば、ここはそのまま『うえ』って読めるよね。もしかしたらあ行は一つで読めるけど、『+お』とか『&え』は他の行だから二個で一つの文字になるんじゃないかな。子供部屋にヒントがあるかもよ。行っておいで」
子供部屋は二つの机と二段ベッドが並んでおり、ボールやら服やら教科書があちこちにしまわれている。片付けに厳しい母のおかげで、床やベッドに物は置かれていない。本来なら
暗号があるということは、暗号の通りにすれば怒られずに見つけられるかもしれない。この間見たアニメでも、主人公は暗号を解いてお宝へたどり着いていたから、
机の割り算ドリルは文字とは違う、世界地図に『あいえおうえ』なんて国は無い、うーんと悩んでいると、
「たちつてと。はひふへほ。まみむめも」
「
「これ! 習ったやつ全部載ってる」
『あ % $ + * # @ ¥ = ん』
五十音順表と同じ配置で書かれた暗号文字を見て、これならわかるかも、と
『 あ い う え お
%あ %い %う %え %お
$あ $い $う $え $お
+あ +い +う +え +お
*あ *い *う *え *お
#あ #い #う #え #お
@あ @い @う @え @お
¥あ ¥う ¥お
&あ &い &う &え &お
=あ =お
ん 』
そして作った表を見ながら、『+お い &え *お う え』の余白にひらがなを書き入れていく。
「と、い、れ、の、う、え。答えはトイレの上だ!」
「レッツゴー!」と
父に言って天井の紙を取ってもらうと、『@い %あ ん *お $い +あ』と書いてあった。
大人達がトランクルームと呼ぶこの倉庫は、普段
土とほこりの混じった匂いを全身で浴びながら、うす暗い倉庫を見上げた。中には冬用タイヤや使わなくなったベビーカー、キャンプ用品や水の入ったペットボトルなど、
『お +お う $あ ん *お お $い &い。さあ、ゴールはもうすぐだ。さがし出せ』の文章に、
「
『お父さんのおしり』と指し示す通りなら、父がなにか知っているはずだ。
「お母さん、お父さんは?」
「あれ。さっきまでそこに居たのに。もしかしたら隠れてるんじゃない? 手を洗ったら探してみなさい」
身体の大きい父が隠れられる場所は限られている。
「
「わかった」
「
二人で両親の部屋のドアを開いた。
両親の部屋はめったに入らない場所だった。大きな家具と難しい本がぎっしりと並んだ本棚があるこの部屋は、いつも薄暗くて寒く、なんとなく入るのに勇気がいると
「お父さんいた!」
「お父さん、おしり見せて」
「おしり? そういえばなにか入っていたな。はい」
小さな鍵を渡された。
「これ、なんの鍵?」
「これはね、お父さんの秘密の引き出しの鍵だよ」
父は自分の机につけられた引き出しに、鍵を差し込んだ。この引き出しが開くところを
あった!
ゲーム機を手にリビングへ戻ると、テーブルにはケーキが置いてあった。
「おめでとう。ちゃんと暗号が解けたから、ごほうびあげる」
母が優しく笑っている。シンプルなイチゴケーキは母が特別な時に焼いてくれるものだ。
「やっぱりローマ字は難しかったかな」
「そんなことないんじゃない。
「だってあんなに早く次々と解くとは思っていなくて、悔しくなっちゃった」
一番どきどきしていたのは
ソウタとハルトの家冒険 静嶺 伊寿実 @shizumine_izumi
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