異世界を巻き込んだ「やり直し」の行方
沢菜千野
きっかけは最悪なお祭りのような出来事でした
「あぁ。ダメだ。ダメだ! この国はおしまいだ。どうしたらいい!」
玉座の間。
大柄の男性が、頭を抱えている。
きらびやかな衣装を身に纏う王は、取り乱し、髭も伸びきり、やつれていた。
「王様、カンタールベリーの街もやられました。死者の様子を見るに、例の伝染病でしょう。この街にもいつ到達するか……」
「原因ならわかっている! 一週ほど前に来た商隊のやつらだ。あいつらが訪れた場所から、感染が広がっている。これは、つまりそういうことだろう」
「だからあのような得体の知れない連中を、国に入れてはならないと申し上げたんです!」
すまない、と王は下を向いたまま、小さな声で溢す。
批判を一手に受ける中、もう食い止める策がないと、王は天を仰いだ。
「あのときの私が間違っていた。国民に面白い経験をしてほしいと思ったばかりに……」
王の就任時、国内は、それはそれはお祭り状態であった。
国民想いでイケメン、そしてカリスマ性のある王子が王になられたということもあり、王都に限らず、どこもかしこも祝典ムード一色。最高の一週間であった。
それからも順風満帆の国政に、誰しもが若き王の存在を認めていた。
しかし、墜ちるのは一瞬だった。
王は、島国にやってきたとある商隊を国に受け入れた。面白いものを見せられる、言葉通りに受け取った王の判断は、結論から言えば間違っていたのだ。
それから数日、国内は動乱に包まれていく。あちこちで病人が溢れ、死者の山ができていく。
批判は当然、王に向けられた。
「王様! 医務室より緊急の報告が!」
男性の声で、現実に引き戻される。
「どうした?」
「お妃様と、王子様が、その……お隠れになりました」
王が人間として堕ちるのも、一瞬だった。
あれから数ヶ月。
国内では、醜い後継者争いが始まっていた。伝染病はいくところまでいった後、終息を迎えた。
「お父様! お父様!」
「その声は、セシリアか? お前も私を笑いにきたのか」
「違います! 私はお父様を救うために、いろいろと準備しているんです。だから、もう少し待っていてください」
セシリアはベッドに横たわる父を横目に、部屋を後にした。
自分を失ってしまった父を助けるために、抑える力を取り戻すために、セシリアはそれを他者から奪うことを決めた。
失敗を繰り返し、日々、やり直したい。あのときこうしていれば。そんな後悔をたくさんの人間が持ちながら暮らしている国がある。異世界のゲートを開いた先にある、日本という国だ。
「バリタ・ロネリアとニホンを往き来する時差を利用すれば、3日くらいなんとかなるかな?」
図書館に籠って見つけ出した、過去の遺産。異世界に通じるゲートを通る路線の存在。これを使わない手はなかった。
「まずは、現地での協力者探しね……。どんくさそうな子でも見つけられればいいけれど。ニホンって、どんな国なのかしら」
列車に揺られながら、セシリアは思い耽る。
計画が上手くいけば、またお父さんと遊んでもらえる。大好きだったお父さんがまた笑ってくれる。
そのためなら、どんな悪にだって染まってみせる。
「待ってろよ、ニホン! 最高のお祭りを見せてやるんだから!」
もう引き返せない。桃紅色に決意を浮かべ、列車の外に見える景色に想いを馳せるのであった。
異世界を巻き込んだ「やり直し」の行方 沢菜千野 @nozawana_C15
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