最終話 お別れ
俺はレナからキスをされ、ボーッと放心状態でその場を立っていたが、しばらくして先程座っていた場所に座る。
だが、俺はまだ放心状態のままだ。
俺は自分の唇を触り、唇を重ねた事を思い出し何度もその場で悶絶する。
するとフレイヤが俺の後ろから歩いて来て、俺の隣の席に座る。
「………何やってんだオマエ?」
「ふ、フレイヤ!?」
フレイヤはドン引きした様な顔で俺を見ている。
俺はそれを見て、すぐに姿勢を正す。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
そういえばレナは一国の姫様だったな、今のキス、フレイヤに見られてないよな………。
するとフレイヤは俺が姿勢を正した後に彼女は足を組み、そして話を始める。
「レナ様、さっき泣きながら走っていったけど、そんなにオマエとの別れが悲しいんだな」
「……ままままさか、見てたのか?」
「ん?いや、周りの警戒をしていたから見てないが、まさか何かを問題があったのか?」
「いや…特に問題は無い…よ………」
「………そうか」
よ、良かったぁ、バレてない!
俺は安心し、胸を撫で下ろす。
この時間、時計塔の下に居た人々は宮殿に帰った為、庭園は静寂に包まれている。
するとフレイヤから話し始める。
「そういえばヴァイスた……ヴァイスについてだが、彼女を我がゲルマニアの王宮に連れて行こうと思う」
「どうして?ハッ!まさかお前、ロリコンなのは分かるがそこまで………」
俺がそう言うと、フレイヤは急に俺の胸倉を掴んで叱りつける。
「誰がロリコンだゴラァ!!」
いやいや、気づいて無いのかロリコンだということを。
だが、フレイヤはすぐに冷静になり、胸倉から手を離す。
「違う、そんな話じゃない、エスターシュタットは魔族に対して反吐が出る程、嫌悪しているから我が国に連れて行こうとへルマンと話し合っていたんだ」
「だが、ゲルマニアで内戦が勃発してるし、危ないんじゃないか?」
「いや、内戦は主に南部の地域で行われているから北部の帝都は大丈夫だ。勿論差別は少ない」
「そうじゃなくて、その帝都まで敵が攻めてくる事は無いのか?」
「愚問だな、陸軍最強の我がプルーセン軍が負けるわけがないだろ。まあオレはヴィッテン王国の人間だが、ゲルマニアの帝国軍人でもある、彼女の安全を保証する!」
「………そうか」
俺はフレイヤの意見には反対ではない。
何故なら、この国で人間やエルフが居たが、
そして彼らがヴァイスに対してやっていた行為、行動を見てもヴァイスを連れて行く事は容認出来ない。
だが、ヴァイス抜きで彼女の事を決めて良いのか………。
いや、勝手に決めても決めなくても彼女の安全が大事だ。
よし、決めた。
「ホントに彼女の安全が保証出来るのなら、ヴァイスをゲルマニアに行かせるよ」
「おう!勿論だ。絶対に約束する」
「フレイヤ、ゲルマニアでの内戦が終われば彼女に会いに行っても良いのか?」
「何を言ってる?当たり前だ!何度でも暇な時に会いに来い、歓迎するよ?」
フレイヤは笑顔を見せる。
彼女の爽やかな笑顔を俺は初めて見た。
というより、人生で初めてこんな『爽やかな笑顔』を見せられたと思う。
俺はフレイヤに感謝し、一礼する。
「フレイヤ、ヴァイスをよろしく頼むぞ」
「おう、任せておけ!」
俺の一礼にフレイヤは動揺するが、すぐに返事する。
「それじゃ、話は終わったから、オレ達は今夜帝国に帰るから、オマエはパーティーでも楽しんでおけよ、カズト」
「おいフレイヤ、今俺の名前を呼ばなかったか?」
「ん?それがどうした?」
「だって初めて会った時に『オレの名前は呼ばない』って言ってたじゃん!」
「そ、そんな事言ってたか?」
「ああ、言ってたぞ!」
「し、知らんぞその言葉、というか別に良いだろ!?オレはヴァイスたんを連れて駅に直行するから、それともヴァイスたんと最後にオマエが挨拶してから連れて行こうか?」
俺はフレイヤからそう言われて、少しだけ挨拶するのもありだと俺は考えたが、俺はすぐさまフレイヤに返答する。
「いや、別れるのが悲しいから良いよ………。それじゃあなフレイヤ」
「おう、オマエも頑張れよ、あとカツラも渡しておくよ、その格好でパーティー行けないし、居れないだろうってへルマンが言ってたからな!」
そう言って、エルフになれるカツラを俺の方へ投げ、フレイヤはすぐさまその場を走り去る。
「はあ、行っちまったか………」
俺はそう呟き、ゆっくりとパーティー会場の方へ歩いていった。
俺はパーティー会場で料理を楽しみ、人々と会話し、もちろんカツラを着けながらだけど………。
その後は事情を聞いたヘルヴェティアさんのご厚意で宮殿の一室を借りる。
中に入ると、よく中世のヨーロッパを舞台にした映画に出てきそうな寝室。
「この部屋を俺が一人で使っても良いんですか?」
「はい、一応この部屋は来賓客を泊めさせる為の部屋だから、どうぞ好きに使うと良い」
「あ、ありがとうございます!!」
そう俺が言うと、ヘルヴェティアさんは笑顔を見せ、その場を去っていく。
ヘルヴェティアが去り、自分は身に付けている様々な物を外し、ベットの方へダイブする。
ベットの感触はフワフワして、まるで大きな食パンの上に寝ている様な柔らかさだ。
………それにしても、人生で最も忙しかった二日間だった。
戦場に転生?召喚?され、皇帝の娘のレナに銃で狙われるわ、メイドのヴァイスに会うわ、殴られたり、魔法を見せてくれたり、神とかに会ったり、そして最後にレナに………。
まだ唇にレナとのキスの感覚が残っている。
……そういえば今頃、レナやヴァイスはどうしてるんだろうな?
もう汽車とか出発してゲルマニアに行ったのかな?
ヴァイスは一人で大丈夫かな?
明日から新しい国家の君主になるが、果たして大丈夫なんだろうか………。
同時刻
エスターシュタット州 ウィンドボナ―――
ウィンドボナは巨大な帝国の首都として君臨したが、魔族との戦争で帝国は解体された。
その街では多くのダークエルフが住んでいるが、その街にある『王宮』の前には夜にも関わらず、多くの民衆が集まっている。
するとそこに一人の女性が現れる。
「臣民の皆、私はやっと『王宮』に戻ることが出来た。この事を諸君らに感謝したい!そして同時に我々ノリクム連邦にとって最悪の報せが講和会議で伝わった!それはこのノリクム連邦の了承を得ず、新たな国家がエルトリア王国とゲルマニア帝国によってこのエスターシュタットで建国されるそうだ!!これは許しがたい事実である!!我々はこの事に抵抗し、ノリクム連邦の名を知らしめようぞ!!」
「「「皇帝陛下万歳!!ノリクム連邦万歳!!ダークエルフ万歳!!!」」」
「さあ諸君、エルフと人間どもに地獄を見せてやれ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ――!!!」」」
―――いや、俺は今までこの逆境を乗り越えてきたんだ!
これからも、この先も、何があっても俺はエスターシュタットの新たな君主として頑張って見せるさ!!
俺はそんな事を考えていると、先ほどまでの心配や不安がどこかへと消え去り、そして心が落ち着き始める。
こんな転移転生者が嫌われる異世界で君主に成り上った俺はこれから先、今までよりも多くの出会いや様々な体験をすることになるが、話はここまでとする。
【完】
転移転生者が嫌われる異世界で君主に成り上がる俺 ヨッシー @Yoshi4041
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