祭りのあとには何がある?
うめもも さくら
祭りのあとには何がある?
赤い
賑わう人の波に身を任せながら祭りの
そして祭りは始まる。
かき氷で舌まで染めて、りんご飴を
金魚すくいに身を
祭りの明るさから離れた薄い闇の奥にたたずむ神社に続く石段に腰を掛ける。
慣れない靴で傷つけられた足を
いつもはどこまでも見える星空も今日は地上の祭りの明るさに顔を曇らせて
「つまらない……」
彼女の
人の笑い合う祭りの日には不釣り合いな言葉だが今の彼女の姿を見ればとてもお似合いな気がした。
祭りの
ここまで
彼女の側でパタリと音をたてて落ちたのは彼女の名前が
その定期には彼女の
優花は自分の名前が入ったパスケースを
優花はもう少女といえるほど幼くはないが、大人といえるほど割りきれてもいない女性だ。
彼女は祭りの醍醐味だと思いつく事は色々とやってみた。
かき氷もりんご飴もわたあめも口にしたが満足しなかった。
金魚すくいも千本引きも射的もやってみたが心のひとつも動かなかった。
かき氷はとけて色のついた水に変わって服を汚すしりんご飴はくちびるにのせた口紅を
金魚すくいは値が張った服の袖を濡らし千本引きは本当に当たりが入っているのか怪しくなるし射的は重すぎる的にやっとの思いで当てて倒したのに落とさなければ駄目だとせせら笑われる。
優花は自分の姿を見て
汚れた着なれないスーツと履きなれない少し高いヒールの革靴によって
祭りのあと、優花は静かな
昔のようにはならなかったと。
昔には戻れなかった。
時が巻き戻る事はない。
そんな当たり前のことにすら絶望を感じてしまう。
いつ頃からだろう。
祭りをただ純粋に楽しめなくなったのは。
大人になることの退屈さを知ったのは。
世間の冷たさと人間の汚さをおぼえたのはと。
祭りの最中、周りにいたのは
そんな人たちに囲まれていたら優花は自身が同じ場所にいていい存在とは
まるで生き方の違いを見せつけられているようで
濡れて
祭りのあと、一気に押し寄せてくる寂しさに
「こんなめでてぇ祭りの日に
突然降りそそがれた人の声に弾かれたように見上げれば優花の座っている場所より少し上の石段に人が立っていた。
他に誰もいないため声の主は間違いなくその人だろう。
声からして男性で自分をガキと呼ぶあたり少年ではなく青年だろうと優花は思う。
そして優花自身、浴衣の知識というものは詳しい方ではないがよく百貨店で目にする浴衣とは一風違う変わった和服に身をつつみ自分の知る男性よりもずっと長い髪を
彼は
「こんな何もねぇところで何してんだよ?祭りやってんのは向こうの通りだろうが」
強い口調だがその声にはどこか困惑と
「あっちにいたけれど騒がしくって、人混みが嫌になってここで少し休ませてもらっていたの」
そう言って優花は傷だらけの足を彼の目につく場所にひょいと軽く上げる。
その足を見て彼は少し驚いたように息を飲んだ。
「ここってもしかして来ちゃいけないところだった?だったらごめんなさい、すぐにお
優花の行き着いたのは彼はこのあたり、神社などの管理をしている人なのかもしれない、そしてものすごく恥ずかしがり屋なのだろうという考えだった。
そして迷惑をかける前に、怒られる前にここを離れようとした。
すると青年はまだ腰を掛けている優花の横を通り過ぎ彼女の一、二段下の石段まで降りるとくるりと振り向き
そしてきょとんとしている優花の足に
驚きと照れていることによって
「ちょ……ちょっと何を「うるさい、少しこのままでいろ」
そうぶっきらぼうに言うと彼は自身の胸元をまさぐり小さな
その中から丸く小さな
昔、どこかで嗅いだことのある
「薬だよね……ありがとう」
傷口にひんやりと塗られた薬は少ししみたがそれよりも今の優花にとってはその優しさが嬉しかった。
「で?祭りは行ったのか?」
薬を塗り終えた彼がまた箱を巾着にしまいながら世間話のように聞いた。
「行ったけどつまらなかった」
優花は人見知りな性格だったが、今ここではじめて会った彼に気さくに話せてしまう。
それは彼のぶっきらぼうな声の中に確かに
「つまらなかった?なんで?」
彼は
「祭りの醍醐味って思いつくものけっこうやってみたのにつまらなかったの。かき氷はとけてスーツを汚すしりんご飴で口紅落ちるしわたあめは風で
彼女は
「金魚すくいしたら袖を濡らしてまで頑張ったのに取れなかったし、くじで引いたのはなんかよくわからないものだったし射的は当てたのに落ちないとダメだっていうし」
「それでもどれも昔は楽しかったはずなのに……つまらない」
大人になったということなのかもしれないと心の中では理解している。
納得もしているはずなのにただどこか
それがひどく
「それはおまえが祭りの醍醐味をまだ味わってないからだろ?服が汚れる
「おまえ、名前は?」
彼先ほどの諫めるような口調よりもう少し優しさを強めた声でそう聞かれ優花は小さな声で名乗る。
「優花……」
彼はその名前に
「よし!優花、今から本当の祭りってのを教えてやる!祭りの醍醐味はかき氷やら金魚すくいやらばっかりじゃねぇんだ。まだおまえ、焼きそばもラムネも食べてねぇ、ヨーヨー釣りも
楽しげにさしだされた手を思わずとる。
彼は優花の傷ついた足を気遣いながら石段を駆けていく。
彼がどこの誰なのか、不思議な衣装を身に纏った彼が本当に人間なのかさえ自分にはわからない。
ただ彼の後ろ姿を眺めながら彼がなにかこのもやつく感情を消し去ってくれるような予感がして、ただそれだけで心が踊った。
大人になっていく
祭りのあと、少し
祭りのあとには何がある? うめもも さくら @716sakura87
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます