カクヨム村の奇祭、エルフ祭り

雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞

エルフ祭りについての民俗学的見地からの考察

 古くからカクヨム村の名産品はエルフと相場が決まっている。

 それは、今日まで秘密裏に続けられてきたエルフ祭りという風習に由来するものだだ。


 さて、村の古老たちが語り継ぐところによれば、まだ村が興されたばかりのころ、世界は混沌の闇に包まれていた。

 そのころの村人達の主食といえばオレオであり、これを一日三枚作ることが神への祈りだった。

 この三枚というのは、食べるよう、食べるためのスペア、スペアのスペアである。


 村人達は恋愛に奔放であった。

 夜ごとグレブナー基底に基づき愛を囁きあって、そのたびに村は炎上した。

 恋愛の解釈違いである。


 月を目指し努力するものたちがいる一方で、ほとんどのものどもは星を追いかけることに忙しかった。

 カクヨム村にはよく星が降るのだが、これはしばしば奪い合いになる。

 金を削って星を模造するもの、他の村から星を奪ってくるもの、あるいはそんな冤罪をかけられ村八分とされ、人身御供に捧げられるものもいた。


 カクヨム村には混沌が満ち、凄惨な光景に誰もが言葉を失い、おぞましさに目を背けた。

 そのころ若者の間では細かすぎて伝わらない物まね選手権が流行っており、のちには地下深くまでリンクをたどる強者たちが現れた。


 暗黒の時代。

 だからこそひとびとは光を求めた。

 この闇を払い、世界を充たす幸せを願った。

 荒ぶる創造神〝トリ〟を鎮めるため、村人達は祭りを行うことにした。

 そうして始まったのが、エルフ祭りであるとされる。


 ……さて。

 ここまで綴ってきたが、エルフ祭りの実体は、驚くほど後世に残されていない。

 名産品として萌エルフが出荷されているし(※以下出典を要参照 https://kakuyomu.jp/works/1177354054882019094 )、エルフの名を冠する長編巻物もよく見受けられる。

 しかし、その名前を知るものさえ、いまでは村の古老たちにとどまっている。


 微かな資料から実態を読み解けば、それはやはり荒魂あらみたま──恐ろしき創造神〝トリ〟を鎮めるための祭りだったと解釈するほかない。

 この〝トリ〟は、文字通りのトリであり、それは神の真実の名前ではない。

 燃えさかるフクロウの姿で描かれることも多いが、名前だけは頑なに伏せられている。


 考察するに、いにしえのカクヨム村の住民達は、かの神を理解できないものとして扱っていたのだろう。

 神や鬼と言ったものは、古来から同一のものとされて区別なく呼ばれてきた。

 また、鬼はおぬ──つまりは居ない、姿が見えないことを意味する言葉であったとされる。

 鬼をモノと呼び習わす地域もある。

 つまり、神と鬼とモノは同じものであり、準じてトリというのも存在しないことを意味する言葉であったのではないかと考えられるのだ。


 ……いや、こうも考えられる。

 トリとは──執筆の隠語であると。


 どんなに強大な神であっても、名前で呼ばれる限り、呼び名によって性質が変化してしまう。

 水の神を河童と呼べば、それは妖怪になってしまうし。最上位の神でさえ萌えキャラに変化させることが出来る。

 カクヨム村の住人達は、それを防ごうとしたのではないだろうか?


 ただトリと記すことで、創造神の姿を曖昧にする。

 ひとは曖昧なものには、なんとかして形を与えようとする。その形を与えるための道具が、ご存じの通り言葉や文字である。

 だからこそ。

 ここで、逆説的な仮説が生まれるのだ。


 そう、村人達がトリに名前を与えなかったのではなく、トリが名前を名乗らなかったことで、村人達に無限の想像力を与えたのではないか──と。


 今日こんにち、カクヨム村は地方の派遣を担うまでに成長した。

 すべては、ひょっとすると創造神トリの思惑の通りであり。

 だからこそ、エルフ祭りという風習も、同じように謎に包まれているのかもしれない。我々の想像力を、試すために。


 つまり、エルフ祭りとは間違いなく──


 富と豊穣をもたらす、最高のお祭りなのである。

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