バカ

 雨の日が増えるにつれて、私は私のせいで別れの文字に敏感になった。私は彼のせいで、別れという文字に感情を乗せてしまった。夏でも寂しいものは寂しいとか、そんな女々しいこと、今まで考えたこともなかったのに。

 雨の日が増えるにつれて、彼の心は次の冬へと向かっていった。彼はバカだった。彼と出会ったとき、彼は私の求めるバカそのもので、なのに、いつからかバカは私になっていた。世界に意味を求めては勝手に苦しんで、その苦しみを紛らわしたくて、誰かと繋がることで自分の温度を紛らわすような。

 それと同時に、なんの皮肉か彼はバカではなくなっていった。自分の温度に頓着しなくなって、周りの温度を測るようになった。そんな彼に無理強いをする気なんて起きなかった。






 斯くして、私たちは気象庁による梅雨入りの宣言と共に別れを告げたのだ。







 いつだって、今というものは原点にして通過点でしかないのだろう。いつだって、やり直しなんて出来ないのだろう。だからこそ、振り返るのだ。あの時ああしていれば、何かが変わったんじゃないかと。あの時ああしていれば、こんなにも苦しい思いをする必要はなかったんじゃないかと。


 きっと、この世界における苦しみの総量は変わらない。誰かが救われれば誰かが貶められる。私が苦しめば、その分苦しまなくて済む人がいるのだろう。私の苦しみは、誰かを救いうるのだろう。叶うなら、どうかその誰かが君でありますように。

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冬の恋人。 御上 @tuki-yoru-saku

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