決めろ！ お祭り王

最高のお祭り

「決めろ！　お祭り王～っ」

　長髪を後ろでまとめ上げている司会進行役の女子部員がタイトルを発表した。

　クイズ研究部の部室中央に並べた机を前に座るのは三人。

　会計、部長、書紀が強めに拍手する。そんな三人の前には早押し機が用意されていた。

「三月といえば年度の最後の月。他の月にはない、人生の節目となる卒業や就職、転勤、進学など、様々な事情でそれまで慣れ親しんできた環境とお別れする季節でもあります。しかも、三月にはひな祭りやホワイトデーなど色々なイベントも目白押しです」

　たしかに、と部長が声が張り上げる。

「今回は、そんなイベント盛りだくさんな三月にちなみまして、『最高のお祭り』に関するクイズを五問用意いたしました。もっとも正解数が多かった人が勝者となります。正解したら一ポイント、誤答すればその人のみ、その問題は答えられません」

　はいはーい、と書紀が手を挙げる。

「一応聞くんですけど、優勝したらどんな賞品がもらえるんですか？」

　室内が静まり、三人の視線は進行役の女子部員に注がれる。

「名誉です」と進行役がきっぱり答える。

「やっぱり？　知ってた」

　書紀は、エヘヘと笑ってみせた。

　そうだよね、と会計が頷いてみせる。

「それでは出題します」

　進行役の言葉を聞いて、三人は早押し機のボタンに指を乗せた。

「問題。二〇〇七年から毎年秋に開催されている、高知発祥の『よさこい』をかけ合わせた最高のお祭り『どんこい祭り』は、相田翔子、矢部太郎、志村けんが出身地でも知られていますが、どこの祭りでしょうか？」

　ピンポーンと音が鳴り響く。

　早押しボタンを押したのは部長だった。

「東村山市」

「正解です」

　ピポピポーンと軽快に音が鳴り響いた。

　会計と書紀は称賛の拍手をする。

「これはムズいですね。志村けんの名前が出てこなかったら、わからなかった」

　部長の言葉を聞いても「俺はわからん」と書紀は首を振る。いっしょいっしょ、と早押しボタンに指をかけながら会計は苦笑した。

　三人の反応を見て進行役はにこやかな笑みを浮かべた。

「ではいきます、問題。疫神怨霊を鎮める祭礼である御霊会（ごりょうえ）が起源で」

　問題文の途中で、書紀が早押しボタンを押した。

「祇園祭」

　ブブー、と音が響く。

　予想に反する答えに「えっ」と書紀は思わず声を漏らす。

「問題文を続けます。貞観十一年、全国的疫病が流行したとき、その退散を祈願して長さ二丈ほどの矛を、当時の国数にちなんで六十六本立てて牛頭天王（ごずてんのう）を祀ったのがはじまりとされる日本三大祭りの一つ『祇園祭』ですが」

　つぎに早押しボタンを押して赤ランプが点灯したのは、会計だった。

「八坂神社」

「正解です」

　ピポピポピポーンと正解を知らせる音が鳴った。

「問題文を最後まで読みます。日本三大祭りの一つ『祇園祭』ですが、牛頭天王が祀られている神社は京都のどこでしょうか、という問題でした」

「牛頭天王は、八坂神社に祀られていると知ってたので、思い切って押しました」

　部長と書紀は小さく手を叩き、会計の正解を称えた。

「問題。二〇一五年より毎年一月一日から三カ月間開催されているひなまつりでは、日本最大級の三十二段一二〇〇体のお雛様や、迷路のように入り組んだ場内の至るところにも雛人形が並び、等身大の雛人形が飾られていることでも有名で、徳川家康の前で住職が居眠りをしたことから改名した際、寺号も改められた静岡県袋井市にある寺は何という名前でしょうか？」

　首をひねり、歯を食いしばり、動かしたくても三人はボタンが押せなかった。

　ブブー、と音が響く。

「正解は、可睡斎（かすいさい）でした。場内に飾られている雛人形の数は、全部でおよそ三〇〇〇体も飾られているそうです」

　圧巻だろうね、ボタンを押せなかった部長は小さく息を吐いた。

　気を取り直して、三人は早押しボタンに指をかける。

「問題。大工が残った木材を燃やしたのが起源とされ、大工の守護聖人サン・ホセの日である三月十九日に七〇〇体以上の大小様々な張りぼて人形をすべて燃やして春の訪れを祝うことで知られる、二〇一六年には世界遺産認定を受けたスペインの三大祭りの一つはなんでしょうか？」

　一斉に三人の指が動く。

　赤ランプが灯り、早押しを制したのは書紀だ。

「バレンシアの火祭り」

「正解です」

　ピポピポピポーンと甲高く音が鳴った。

「ラス・ファリャス、あるいはラス・ファジャスと答えても正解でした。この祭りはご存知でしたか？」

「スペインの三大祭りを覚えたことがあって、必死に思い出しました。たしか『バレンシアの火祭り』と『セビリアの春まつり』、あとは」

「牛追い祭りですね」と部長が横から口を出す。

　押し負けた～、とうなだれながら書紀は手を叩いた。

「これでみなさん一ポイントずつ、同点となりました。次がラストです」

　進行役の言葉の後、三人の指がそれぞれの早押しボタンにかかる。

「問題。『俺が死んだら祭りだからな』と話していた、世界最高齢の存命中男性」

　問題文の途中で会計がボタンを押した。

「渡辺……下の名前が出てこないっ」

　ブブブー、と音がなる。

「もう一度、問題文を読み上げます。『俺が死んだら祭りだからな』と話していた、世界最高齢の存命中男性としてギネス」

　このタイミングで押したのは、部長だ。

「渡辺智哲（わたなべちてつ）」

　満面の笑みを浮かべたとき、ブブブー、と音がなり響く。

　違うんかいっ、と苦笑に変わる。

「これで解答権があるのは書紀だけとなりました。問題文を読み上げます。『俺が死んだら祭りだからな』と話していた、世界最高齢の存命中男性としてギネス世界記録に認定を受けた渡辺智哲（わたなべちてつ）さんがこの度、二〇二〇年二月二十三日に亡くなられました。享年はいくつだったでしょうか？」

　顎をしゃくりながら、書紀が早押しボタンを押した。

「百十二歳」

「正解です」

　ピポピポピポーンと正解を知らせる音が鳴った。

「この結果、お祭り王は書紀に決まりました。おめでとうございます」

　進行役の言葉に、部長と会計は称賛の拍手を書紀に送った。

「ちなみにご存知でしたか？」

　進行役の問いかけに書紀は、「ニュースでみた気がします」とほほ笑みを浮かべた。

「長寿の秘訣は笑顔と答えていたと記憶してます。三月五日生まれだったはずなので、もう少し長生きされていたらとも思いますけれど、自分がそこまで生きられるとは思えないので素直にすごいと思いました」

　確かに、と会計はうなずく。

「人生とは、一度だけの最高のお祭りともいいます。自分で考えて選択する自由を手放さず、クイズを楽しんで生きていきたいものですね」

　お祭り王おめでとうございます、と進行役は書紀に拍手を送った。