四年目の科学

秋色

四年目の科学

 ――愛は四年で終わる――

 そんな本を子どもの頃、親戚の家の本棚で見つけてショックを受けた。科学的にはそうだと外国の有名な学者が書いた本。いつか好きな人が出来たら一生幸せになれると信じていたウチはその日何も食べられない位ショックで立ち直れなかった。


 でも確かに両親も会話が少なかったし、幼なじみの雪菜の親も離婚していた。

 そもそも雪菜とだって子どもの頃は仲良くて毎日辺りが薄暗くなるまで遊んでいたけど、中学に入る頃にはよそよそしくなっていた。

 周りを見回してみても自分自身をかえりみても、心がさめるのに四年という年月はしっくりきてる気がした。


 従姉妹のお姉さんは定期的に好きなアイドルが変わって、その度にせっかく集めたポスターや雑誌の切り抜きを捨てている。それは考えてみれば四年ごと位。


 今のツレと付き合いはじめてもうそろそろ四年目になる…ってその事に気が付いた時、もうダメかもと思い始めた。別に喧嘩したわけでもないけど、そう言えば最近冷たい気がした。


 出会ったのは、大学の入学式。偶然隣にいて、キーホルダーのキャラが同じで、それがきっかけでそのキャラが主人公の漫画、「砂漠クッキー」の話でほんのり和んだ。小柄で大人しそうで、眼は黒眼がちなのに眼鏡で隠れ気味なのが残念だった。それからウチらはデジカメサークルでも再会した。

 ボーイッシュなウチが、サークルのみんなに「夏希といると女といる気がしないよな」なんてからかわれても、彼は冗談が通じないみたいにムッとして、「いーじゃん。そーゆー方がかわいいと思うんもいるんだから」って言い返した。周りのみんなはセンボウなのかあきれているのか分からなかった。ウチはただぼーっとなって頬が熱くなるのを感じた。


 それなのに最近はサークルでも一年の沙也加と仲良く話したりしているし、しかもこの沙也加はウチとはまるで正反対の女の子を絵に描いたようなコだ。

 もし別れるなら自然とフェイドアウトするのはイヤだった。かえって辛い気がする。友達とだってそんな風に離れ離れになるのは喧嘩別れより寂しい。

 だから話の流れで海に行く事になった時、もしかしたら別れ話ではと推察し、それならそれも仕方ないと覚悟した。


 その日、海に行く前に彼は親戚の叔父さんのマンションに寄って、借りていた物を返しに行くと言った。それは昔のアナログレコードだった。「そういうのが好きなんだ。レトロなんが好きなんやね」「ただ好きなだけ。叔父さんが若い頃好きだった曲なんだ。僕も子どもの頃から聴いてる」「飽きんの?」「全然飽きない」


 三月の海はまだかなり寒かった。私は世間話のついでのように「かわいいって沙也加みたいなコの事言うんだよね」と言った。すると彼は「そうかな」とあまり共感もしなかった。「ウチみたいなんでない事だけは確か」と言うと「いやーそんなん言うなよ。かわいいと思うんもいるんだから」とムッとしていた。ふっと目を落とすと彼の手には車のキーがあり、キーホルダーは入学式の時のあのキャラのだった。まだピカピカだった。

「ウチのは今、外してるんだ」

 実は手入れが上手くなくて、錆びついて汚くなっていた。ママは呆れながらも、錆はキレイに剥がす事ができる、キレイになるよと言っていた。家に帰ったらキレイに磨こう。きっとピカピカになるはずだ。


 ――愛は四年で終わる――

 科学的にはそうだと外国の有名な学者が書いた本。でもキーホルダーを磨こうと決めた春の日に、ウチは科学を信じていなかった。


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