アニバーサリーは似合わない

水涸 木犀

アニバーサリーは似合わない

「最近さ、“なになに周年!”っていうイベント多くね?」

 唐突に放たれた遥斗はるとの言葉に、わたしは苦笑いした。

「某テーマパークの開業記念とか、創立記念とか、そういうやつ?」

「そうそう!」

 遥斗はいつも通りのオーバーリアクションで、激しく頷き言葉を重ねる。

「10周年とか50周年とかさ、きりのいい数字を祝うのはわかるよ。でもさ、最近きりの悪い数字でも祝う風潮ない? 何かそれ違くね? って思うんだけど」

 その言葉に、わたしはここ最近見聞きした周年イベントを思い返した。

「……確かに、ちょっとまえ某テーマパークが開設6周年のときに行って、『6th anniversary』グッズが大量に売られててちょっと変な感じしたわ。別にその時々のイベントにあったグッズを売ればいいわけで、わざわざ開設年を祝わなくてもいいんじゃないかとおもった」

「だよな! そういうやつそういうやつ。みなとも思わねえ?」

 遥斗の横で話を聞いていた湊は、まぁ、と小さく頷いた。


「某テーマパークで毎年記念グッズを売っているのは、身も蓋もない言い方をすればコレクション心をくすぐるためだろう。毎年そろっていないと気が済まない人は、グッズを買う為に毎年それを買い求める。……ただ、確かに最近『◯周年』の形で祝う風潮が強い気はするな」

 ただし、と湊は言葉を続ける。

「遥斗が違和感をもつのはキリが悪い年を祝っているからというより、年数が浅いのに祝っているからじゃないのか」

 ああ、とわたしの口から思わず言葉がもれた。

「学校の創立122周年! とか会社の創業153年! とかは普通に凄いとおもう。きりが悪いけど。むしろそういうところって、大正元年創業とか創業年が古いことをアピールしてる感じあるよね」

「そうだな。そういう“歴史があることを誇りにする”パターンの記念日アピールの感覚が強いと、四周年とか六周年とかを祝うことに違和感をおぼえる。でも、俺たちの日常では、もっと毎年祝っているものがあるだろう?」

 もったいぶった湊の言葉に、遥斗があ、と言う。


「誕生日、は毎年祝うな。四歳でも六歳でも……そっか、誕生日祝ってる感覚なのか、“なになに周年”イベントって」

 わたしも記念日イベント=誕生日会はイメージがついたので頷く。

「そうかもね。違和感感じるのは、そのイベント主催団体を擬人化してみれてないから、かも。人が一年間生きることは祝うのに、団体が一年生き延びたことは祝う発想にならないっていうのは、むしろ変なのかな」

「変じゃないだろうが、組織が一年存続するのは、人が一年生きるのと同じくらい難しいことだろうな。組織自体が生き物ではないから、それ自体を祝うというより組織の運営者を祝う方がイメージしやすいのは間違いないだろう」

「結局、組織をつくったり動かしたりしているのは人だもんね」


 日頃お世話になっている会社やテーマパークが誕生日を迎えたから、そこの維持運営をしてくれている人を祝う。それなら確かに、祝う意味は十二分にある。わたしが湊の言葉に納得していると、遥斗はじゃあさ、と身を乗り出した。

「イベント主催者の人を祝うのに、年区切る必要も無いよね? 自分がそのイベントに対して感謝した時に祝えばいいんじゃない?」

 遥斗の発想に、わたしはまた苦笑いが出た。誕生日の話はどこいった。

「それもそうだな」

 しかし、湊は遥斗のアイデアを首肯した。

「誕生日は、生まれてきてくれたこと、成長したことを周りの人が祝う日だ。他方で、生まれた当人が今まで育ててくれた周りの人に感謝する日とも捉えられる。前者は区切りをつけて行った方が『イベントごと』の特別感が出ていいだろう。大家族だと親戚を集めて同窓会のようになることもあるらしいからな。だが後者は、周りに感謝したい出来事があったときにいつでもその思いを伝えればいい。わざわざ記念日まで祝いの言葉と気持ちを溜め込む必要も無い」

「そういうものか……」

弥都みとはピンと来ない?」

 首をかしげながら訊いてくる遥斗に、わたしは首を横に振る。

「いや、誕生日の話、周りに感謝する日って発想があんまり無かったから。ちょっと反省した。たしかに、今まで生きてこれたことを周りに感謝するっていう発想も大事だよね」


 記念日は誕生日。人が、組織が、団体を続けてこられたことを主催者が祝い、関係各所に感謝の気持ちを伝える日。一方で、関係各所であるわたしたちが主催者を祝える日でもある。でもよく考えたら、一日、一日が人の存続を支えている。生まれてきたことを祝うことは。日々生きていることに感謝することだ。日常の中の感謝の気持ちに、記念日という言葉アニバーサリーは似合わない。それはもっとありきたりで、もっともっと表に出していいものだ。

 まずはわたしといつもくだらない話で盛り上がってくれる、遥斗と湊に感謝をしよう。

「遥斗、湊。いつもありがとう」

「えっ、いや、こちらこそ」

「こちらこそ、ありがとう」

 唐突なわたしの感謝の言葉に、遥斗はどもりながら、湊は落ち着いて応えてくれた。今度感謝するときは、きちんと理由もつけるから。照れくさいから、今日はこれだけで。

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