第7話 永遠世界の囚われ人
長い長い御伽話を聞いた。
「これが、全部」
そう言ってアメリアは笑った。
私は、ただただ涙を流すことしかできなかった。
「長い長い時間をかけてわかったんだけどねー、私たちが初代王と名乗ってからする発言にはとんでもない重みがあるみたい。んで、その発言をすると私らにもなんとなくわかるんだ。それで駆けつけられた。……そのことがわかってから、初代王と名乗るのは貴方達だけにしようって約束もしたんだけどね」
シホはほんっとしょうがないやつだよ、といいながら空を見上げる。
氷漬けにされたルシアは、リリィの魔法で海の底に封じられたらしい。
「ルシアは、約束を破った。……きっと、長い時で狂ってしまった」
珍しくリリィの翻訳がなくてもわかる言葉をルークが発する。
長い時で狂ってしまう。実感は湧かないが、意味は分からなくもなかった。
彼女は何度も何度も私を看取ったという。
愛する人の死際を、数え切れないほど経験して真っ当でいられる自信は私にもない。
「さ、てと。アイラはこれからどうするの? 私たちは、これから四人で行動する。結局さ、何言ったってこの世界で過去を気にせず生きていくのは無理だって思ってるんだ、私。記憶がなくたってさっきの話は事実で、この世界がこうなった原因も自分にあって。その罪滅ぼしをしに行くんだ。……シホさんがもし狂った時、止めるためにも」
アメリアは一緒に来いと誘ってくる。
確かに、今の話全てを忘れることはできないし、ルシアを止めてくれたお礼を私はすべきなのかもしれない。でも。
「私には、子供がいるんです。大切な人との、子供。私はこの子を父なし子にしたくない。それに、何より私が三人で幸せを掴みたい。きちんとテオに……旦那にも、生まれてくるこの子にも私のことを話した上で、幸せになりたい。私だけこんなこと言うのはずるいかもしれないけど、これが本心です。だから、いけません」
四人に向けて頭を下げる。
反応が一切ないのが怖くて恐る恐る頭を上げると、四人とも私を見て笑っていた。
そうして、四人は何も言わずに立ち去った。優しい表情を残して、私の元から立ち去った。
私は、過去に囚われるぐらいなら今に囚われていたい。
私は決して自分が過去にしたと言うことも、姉妹のことも、王の、ルシアのことも忘れない。
ただそれを糧に、二度とないかけがえのない今を抱えて生きていきたい。
元どおりになった生活は、本当に元に戻ったわけではない。
テオに全てを打ち明けると、彼は今までより過保護になった。
記憶はないのだろうが、街の人たちの私に対する態度が少しだけよそよそしくなった。私がルシアや妹達に感じたような、覚えていなくても憶えている、と言ったところだろう。
でも、時はすぎるのだから変わることは、元に戻らないのは当たり前のこと。
ここは、永延に記憶が続く世界であっても、永遠に変わらない世界ではないのだから。
その証拠に、ほら。
新しい私たちの家族が、新しい命が声を上げようとしている。
こうして私は、さらに強く、今に囚われる。
永遠世界の囚われ人 空薇 @Cca-utau-39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます