第2話  一人の少女との出会い

 俺が向かった先は近所の書店。ただ、漫画やライトノベルを買いに来た訳ではない。

「あら、いらっしゃい空くん。」

「こんにちは、白井さん。新しい料理本は入荷されましたか?」

 こちらは母の小中高の同級生でこの書店の店員さんの白井さん。俺が幼稚園の頃から色々とお世話になっている方だ。

「ええ。いつものところに置いてあるから。ゆっくり見ていってね。」

 




 実は俺、野球以外の趣味は料理なのだ。きっかけは、小学校3年の時、栄養士の仕事をしている母から初めて料理を教えてもらい、難しさと楽しさに魅力を感じたからだ。今では、スポーツ選手を目指す以上、食事の管理をできるようにしておかないといけないと思い、弁当を自分で作るようになった。 

 今日探しているのは、作り置きレシピが載った本。毎日一から作るのは大変だしな。

・・えーっと、どこだ?...あっ、あった。

見つけた本を取ろうとしたとき、




「きゃっ。」

「うわっ。」

誰かの手に触れ、思わず大きな声をあげてしまった。



「すみません。大丈夫で..す...か?」

「いえ、こちらこそすみません。」

振り向くと、女の子がいた。眼鏡をかけた小柄の、文学少女のような雰囲気だった。しかも、俺と同じ星嶂学園の制服だ。

「あの〜、どうかされましたか?」

「い、いえ。なんでもないです。」

・・くそ、何をやっているんだ俺は

と、いつも通り女の子に怯えていると、

「もしかして、お料理が好きなのですか?」

「は、はい。やっぱり男が料理って変わってますかね?」

「いえ、そんなことはないです。むしろ素敵だと思います。」

「それはどうも。」


(あれ、不思議だ。いつもならすぐ逃げ出してしまうのに、この子とは緊張はしているが、普通に話せている。なんて不思議な女の子だろう。)

そう思いながら彼女とたわいのない話をしていると、時間があっという間に過ぎていった。

「やばっ、もうこんな時間。これから大切な用があるからもういくね。楽しかったよ。」

「こちらこそ楽しい時間ありがとうございます」

「じゃ、また会えたら。」

「うん。」

彼女の素敵な笑顔にドキッとしつつ、祝勝会の準備のためにダッシュで家へと向かった。





 この僅か数十分の出来事が、俺の高校生活がガラッと変わることを、この時は知らなかった。

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こんな俺でもまともな恋愛できますか? 阿久津さくら @ts283itsuki

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