四年に一度の祭典1
小石原淳
第1話 一位じゃだめなんですか?
今日は四年に一度の祭典、
集落には老若男女合わせて百七名がいますが、そんな勝負事に誰が参加するのか。これは、その年の誕生日で十九歳から二十二歳になる男女全員です。小規模な村ですから、若者はいないだろうと思われがちですが、案外多く、また途切れることなく続いています。今年も六人の参加が確定しています。
勝負の形式はその年によって多少の違いはありますが、基本的に負け残り戦です。つまり一度勝った者は、勝負から抜けます。
今年はまず、六人全員がある勝負を行い、そこで最下位になった者は決勝戦(負け残りなので決敗戦と呼ぶべきかもしれません)に直行。逆に勝者も一人決め、その者は抜けられる。他の四人は二回戦に進み、くじ引きによって対戦組み合わせが決められ、一試合一時間の制限内で勝負。さらに負け残った二人が三回戦でぶつかり、負けた者が決敗戦のもう一つの席に座り、最後の戦いに臨むという流れが発表されています。
ちなみに、この催事と一ヶ月後の式典を見ることができるのは、二十三歳以上の者と決められています。また、見た者は二十二歳以下の者にその内容を伝えることは禁じられています。言い換えると、参加者達は戦いの場に立って初めて、祭典の雰囲気を体感できるのです。
何の勝負をするのか? それはあらかじめ定められてはおらず、対戦の直前になって主催する村の長から勝負事の内容が提示されます。参加者に拒否する権利はありません。
勝負事の内容ですが、基本的には運の要素が強いものばかりです。知略の入り込む余地がゼロではないが、一時間というさして長くない制限内では、充分に発揮されることなく終わる場合がほとんどと言えましょう。ただ、決敗戦だけは体力も必要な過酷なものとなることが公にされています。
また、八百長は暗黙の内に認められています。というのも、大きくはない集落で育った、年齢の近い者達となると仲のよい二人が対戦することもしばしば起こりえます。そんなとき、とっさに片方が八百長を持ち掛け、相手のためを思ってわざと負けるという行為を禁じることは実質不可能です。
さらに言えば、知恵によるいかさまやだまし討ちも禁じられてはおらず、そのことを理由に反則負けにはなりません。もちろん、各人が対戦相手や勝負事の内容について知るのは当日、戦う直前であるため、事前に仕込むのはまず無理ですが……まあ、やりようはあるものです。
とにもかくにも、第一回戦、六人参加の勝負事、言うなればバトルロイヤルを見てみるとしましょう。
参加する六人は、アナ(女二十一歳)、エドモントン(男十九歳)、キュール(男二十歳)、クランマ(女二十二歳)、ソイベ(男二十二歳)、サーロット(男十九歳)という顔ぶれ。いずれも村の学校で高校まで学び、現在は職業訓練学校に通うか、師匠や先輩に就いて仕事を習い覚えているところです。
小学校のグラウンドが戦いの舞台で、村の年長者達が周りをぐるっと囲んで見守る中、勝負事の詳細がアナウンスされました。
「六人で投票を行う。投票権は一人一票。自分自身に投じてもよい。得票数で一位となった者は無条件で最終戦に残る。得票数で二位になった者はこの勝負の勝者とし、勝ち抜け。ただし、一位が同数であった場合は無効とし、三十分後に改めて投票を行う。一位は単独だが、二位で同数が出た場合は一位の負け抜けは有効、二位の勝ち抜けは無効とし、勝ち抜けの者を出さないまま、五名が二回戦に進む。再投票となった場合、前回と同じ者に票を投じてはならない。
第一回の投票は、開始の合図から五分後。それでは始め!」
このスタートに、六人はざわつきました。再投票のときは三十分の猶予があるとの説明だったので、当然、最初の投票でも三十分が与えられるものと信じて疑わなかったのでしょう。
早速動いたのは、最年長の男、ソイベです。
「時間がない。みんな聞いてくれ。我々の採れる選択肢は二つだろう。個人の判断に任せるか、相談して一人の勝者と一人の最終戦進出者を決めるか」
「相談しても敗者を決めるのは難しいでしょ。誰か好き好んで立候補するなら別だけど」
疑問を呈するのはクランマ。
「かといって自主投票だと、一位になるリスクを避けるために、みんな自分以外に入れるんじゃないかなあ」
キュールが意見を出しました。彼はクランマの彼氏であり、年上ともため口に近い話し方をするのです。
「自主投票は避けたい。恨みっこなしなんて幻想だ。どんな結果になろうと、絶対に恨みが残る」
再びソイベ。
「相談するなら自己犠牲の精神が必要になりますよね。ソイベさん、あなたがその役を買ってくれるのでしょうか」
アナが問うと、ソイベは首を横に振りました。
「いや。そもそも僕が言った相談とは、そう言うのとは違う。今後を考えて、最善の選択をしようってことさ」
「と言いますと?」
エドモントンが首を傾げつつ聞くのへ、ソイベは胸を張って答えます。
「二回戦に進んだとして、嫌な相手、苦手な相手とは当たりたくないだろ。そいつをここで落としてしまうんだ。勝者にするか敗者にするかはともかく」
「言いたいことは分かったけど、それって誰?」
「このあとも似たようなゲームをさせられるんだとしたら、と考えるんだ。この中でゲームが一番得意なのは」
ソイベの言葉に、他の四人の視線が、一人に向けられました。その一人とは、サーロットです。
「ええ? 僕ですか?」
「ああ。君はとんちの効いたクイズやパズルが得意だったね。マジックの技術もある。特にトランプカードを使ったマジックは驚異だ。万が一、このあとトランプによる勝負となったら僕らは君に勝てまい」
「そんな。先輩方相手にいかさまなんてしませんよ」
「いざとなったら分からないさ。どうだろう、みんな。サーロットに勝てるとしたら体力勝負しかないと思うんだが」
他の四人を見渡すソイベ。四人はうなずき合いました。
「勝者は運を天に任せて、敗者はサーロットでいいんじゃないか。なに、これで彼の敗退が決まるんじゃない。あと一回は機会があるんだ」
ソイベが“演説”を終えたところで、五分が経過。サーロットの反論は許されずに、そのまま投票へと突入したのです。
開票結果は、おおよそ想像が付くと思いますが、記してみましょう。
一位 サーロット 四票
二位 ソイベ 二票
「ソイベ。あんたってまさか」
結果発表を聞いたクランマが、ソイベに詰め寄りました。なお、サーロットは早々にグランドから外へ引きずり出されています。乱闘騒ぎを防ぐためで、仕方ありません。
「最初っから、自分が二位抜けする狙いだったのね?」
「ああ。ルールを聞いている間、君らを煽れば誰かを一位にするのは案外簡単だと踏んだ。その上で、俺は俺自身に一票入れておけば、サーロットからも一票を食らうだろうから合計二票で二位はほぼ確実だ。一人くらい、二位が狙えると気付いて自分自身に入れる奴が出るかもしれないと思ったが、君達は非常に素直なんだね」
“僕”から“俺”になって得意げに語るソイベは、薄い、冷酷とも言える笑みを覗かせていました。
「こんなことになるのならソイベさん、あなたを落としてやればよかった」
キュールもクランマを加勢し、ソイベの胸ぐらを掴みかねない勢いです。
「おっと、気を付けなよ坊や。ゲームで認められていない暴力行為は、即失格になることもあるらしいぞ」
「くっ」
「まあ、いいじゃないか。おまえ達はこのあと、コンビで戦えるんだから。あとの二人は個人戦だ。ちょっとは有利だろ」
アナとエドモントンそれぞれを、肩越しに見やるソイベ。彼は係の者の案内で、外に向かって歩き出しました。
「じゃ、諸君の健闘を祈る」
終わり
四年に一度の祭典1 小石原淳 @koIshiara-Jun
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