【KAC20201】怪しい花が咲く秘密の場所

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

与太話

 おっ、こんばんは。

 今日は珍しい話が聞きたいだって?


 ははっ、お前がそんなことを言うこと自体珍しいじゃないか。

 

 まあ、いいか。

 俺も話したい気分だし、まずは聞いてくれよ。


 俺の実家は中部地方の山奥にある。

 

 大昔の込み入った事情が継承され続けた結果、とんでもない効力を持った物を守らなければいけない役目を担っている。


 俺はまだ二十歳そこそこだから、その役目自体は親父が現役のままだ。


 肝心のそれだが、死人を蘇らせる効果がある特別な花と言われている。

 なぜ遠回しな言い方なのかって?


 そりゃ、それだけヤバいものだからおいそれと見れないわけだ。

 それに四年に一度だけ蕾が開くらしいから、時期的にも限られている。


 俺はふざけてなんかいないぜ。

 至って大真面目だ。


 それにこの花の情報が裏で取引されているせいで、色々と面倒なんだぜ。

 自分の身近な人が亡くなって喪失感に苛まれている時、「その人を生き返らせることができますよ」なんて甘い言葉で言われたら、惹かれるのも無理はない。


 そんなわけでどこかで情報を仕入れてきた輩から、花が咲く場所を守らないといけないわけだ。


 もうホントに大変なんだってこの仕事が。

 相手が銃で武装しているのは日常茶飯事で、爆薬火薬刃物――何でもあり。


 だから、親父もそれなりに備えているし鍛えてもいる。

 それに地の利があるあの場所では簡単にやられることはないんだ。


 正直なところ、武装して襲いかかってくるタイプは単純で楽だと思うぜ。

 それよりも泣き落としにかかったり、同情を買おうとしたりするタイプの方が厄介なんじゃないか。

 

 時には、「どこで花が咲くかを教えてくれなければ山に入って首をくくります」なんてツワモノも現れたりして、本当に大変な仕事なんだ。


 ――そういえば、今年はうるう年だったか。


 ははっ、残念だったな。

 うるう年は花が咲く四年に一度のタイミングじゃないんだよ。


 ……そうか、そうか。

 生き返らせたい人なんていないか。


 ああっ、なんでこんな話をしているのかって?

 わざわざ他人のあんたに話すようなことでもなかったけど、今日は何となく話したい気分だったんだよ。

 

 それに親父もだいぶ年老いてきたから、そのうち俺の代になるっていうのもあるな。


 ところで、「代が変わる」って言葉では簡単でもけっこうめんどくさいんだぜ。

 防犯用に猟銃や罠の使い方を覚えないといけないし、使用許可のために申請や講習が必要だったりするんだよ。


 兄弟がいれば代わってもらうこともできたかもしれないけど、うちの場合は上も下も女だから。さすがに任せるわけにはいかないだろうな。


 どっちにしろ、そう遠くない日に俺の代になるわけだから、すでに気が重いぜ。


 ……えっ、何だって? 本当に死んだ人間が生き返るのかって?


 そりゃ、そうだ。

 それが普通の反応だと思うぜ。


 俺の話を聞いて真に受けて、どこにあるのか血眼になるのはどうかしてる。

 

 だいぶ山奥だし電車やバスじゃ行けない。

 タクシーでも行けなくはないと思うけど、目玉が飛び出るような運賃になる。


 ……というわけで、俺の話はこんなところだ。

 

 そうだ、打ち明けついでに話しておくか。

 にわかに信じがたい花を俺の一族が守っている理由を。


 それは単純なもので、俺の先祖が実際に花を使っちまったらしいんだ。

 ああっ、だから先祖の誰かが生き返ったことになるな。


 それで、その時に花の精みたいな存在に言われたんだと。


 人の身で法外な力を使った以上、子々孫々この地を守ることで対価を支払え。

 

 うろ覚えだけど、こんな感じだったと思うぜ。

 さすがに現物は見せられないけど、口伝じゃなくて古い巻物も残っている。


 四年に一度って、オリンピックとか明るいイメージを持つ人が大半だと思うけど、俺の場合は真逆だな。あの花のことしか考えられない。

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