「集められた4人…」

低迷アクション

第1話



「4」と言う数字は不吉を現す事が多い。ホテルの部屋番などでも、この数字を省くのが通例となっている事もあるようだ。


これは、その「4」に関した行政窓口で勤務する友人の話である。


平成27年に施行された生活困窮者自立支援法の要項には様々な“困窮”が明記されている。

障がい者、引きこもり、高齢の低額年金受給者、刑務出所者、ETC、ETC…


これらの相談者を支援する窓口として、規模の大きい自治体(市や都など)では、市役所内、

公共施設に相談窓口を設け、支援を行っている。


相談の中で最も多いのは“金銭”に関する困窮だ。窓口に所属する相談員は、

こういったケースに対し、市の社会福祉協議会(公共性の強い福祉法人)の貸し付け(比較的、金利が安い、とゆーより、ほぼ無い金貸しの事)や

生活保護の窓口に案内するのがほとんどだと言う。


最も、どちらも該当要件は厳しく、条件に当てはまらないが、困窮しているという相談者の支援が一番難しいとの事だ。


その“男”は初めからどの支援にも該当しなかった。服装はボロボロ、ヒゲは伸び放題、

体からする異臭も酷く、要支援が必要と見受けられたが、彼が着古した服に突っ込んでいる

“札束”の額が、当面の生活を保障していた。


「ただ、話を聞いてほしい…」


と言う事で、あらゆる窓口をたらい回しにされ、友人の所まで来たと言う。


以下は彼の話である。


えっ?あんちゃんはお役所の人間じゃないの?ああっ、委託で…なるほどねぇ…そう言う仕事もあんだね。俺もさ、この金はさ。仕事して、もらったんだよ。まぁ、あやうく死に金になる所だったけどさ。ハハ…


彼は土木工事の作業員だったが、怪我が元で、職を失った。頼れる親類も、友人もなく、職安で最後の失業保険の受給手続きを行った帰りに、声をかけられた。


割の良い仕事があるってね。

何でも、その村はさ。4年に一度のお祭りをやるらしいのよ。そん時に村の繁栄を祝う意味で他人様を客としてもてなし、盛大に祝うってさ。俺達みたいに、金とかに困ってる奴を


助けるのが、村の利益に繫がるらしくてね。俺は選ばれたんだって(その選考には、家族の有無や親戚等、近親の者がいるか等の質問があったそうだ)


そんで、トントン拍子で話決まってさ。バスに乗せられたんだ。いや、乗ってみて驚いたよ。

いきなり目隠しされてさ。目的地まで外してもらえなかった。それも一切、説明なしで…


どれくらい走ったのかな?とりあえず、降ろされたのは、どっかの山の中さ。建物の明かりとかはあんだけど、一切、観光なんかは無しで、いきなり公民館みたいな所に押し込められた。


そんで、弁当と飲み物、布団と毛布渡されて、明日の朝まで待機って事になった。ガタイの良いのが見張り役で、ついちゃってよ。ビックリしたよ。かなりね。


まぁっ、ちょっと聞いてた話と違うけど、自分の現状比べて、選んでる余裕なんてないしさ。

仕方ねぇなって思った訳よ…


男は自分を含め、そこには4人の人間が集められていたと言う。


1人はヤクザモン、つっても、歯はほとんどねぇし、傷だらけで目は逝ってる。飯食ってる途中でズボンに染み作るような奴だった。ありゃぁっ、三下の鉄砲玉か、シャブ中だな。


会話もロクに出来ねぇで、もごもご呟いてた。2人目はヨボヨボのジジイ、聞いたら、息子夫婦が死んじまって、天涯孤独、借金もあるし、食い物、住む所なし、でも、年金受給額高すぎて、生保受けらんねぇ…だから、ここに来たって言ってたな。


3人目は女だったな。何か、施設の出で、病気してるとか言ってた。もう、長くないから、

最後に役に立ちたい。そんな感じだった。


皆、訳あり…いろんな意味での困窮者、それが集められた。嫌な予感しかしねぇよな。

と言っても、大した事があった訳じゃないんだけどさ。現に帰ってきてるしな…


それは夜に起こった。


3人目の女がさ…急に苦しみだして、そのままポックリ死んじまった。ビックリだ。爺さんなんか念仏唱えっぱなしだ。シャブ中はヘラヘラしてたけどな。でも、見張りの奴等の様子が…それが正直、一番驚いたな…


死んだ女を運び出す見張り達の表情は、まるで親しい友人や、家族を亡くした時に近いものだった。


もう、そいつ等の落胆っぷりってのが笑っちゃうくらいでさ。こっそり、俺が後ろからついていっても気づかないくらい…おかげで、俺達が集められた理由も、なんとなく

わかったけどな。そいつ等がボソボソ呟いている話の内容ってのがな。


「やっぱり、病気持ちは駄目だったな」


「しかし、どうする?4年に一度の4人だぞ?残りの3人は捧げるか?」


「馬鹿、4人揃わなきゃ、駄目だ。昔からそうなってる。今から見つけるには遅い…」


「じゃぁっ、次の4年後を待つのか?」


「そうなる…しばらく悪い年になるが、仕方ない。実行委員を集めろ…」


どうやら、俺達は村の繁栄のための“客人”じゃなくて、繁栄のための“人柱”として

集められたみたいだ…


乾いた声で喋る男の表情は無表情だった。次の朝、残った3人には、まとまった金が渡され、行きと同じ手順で、帰されたと言う。しかし、その際に、彼等から言われた事があった。


俺がさ、後ろからコッソリ尾けてたの、バレてたみたいでさ。連中から言われたよ。


「昨日聞いた話を人に話しても、構わない。だが…」


そこまで言って、アイツ等、俺の全体を見回して、薄く笑って、行っちまった。そうだよな?

どうせ、誰も信じない。金もない、住む所もない。助けてくれる奴なんて誰もいねぇ、弱者の俺達の話なんて、誰が信じる?アンタもそうだろ?ただ、この話を誰かに聞いてほしかったんだ。誰でもいい。誰かに…


男はひとしきり喋ると窓口を後にした。友人は勿論信じず、酒の席での話の一つとして、

私に語った。


「こないだ、スゲー、アホでイカれてる奴が来てさ。あっ、これ守秘義務あるから、内緒ね?

最も、名前出さなきゃオッケーだけど。」


彼の窓口では、この手の話がよくあるそうだ…(終)

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