かおなし法一郎
常陸乃ひかる
かおなし法一郎
私の名前は
四年に一度だけ顔のパーツがなくなる奇病に罹っているのです。そんな奴はついぞ見たことがないとお思いでしょう。
今回は一体、なにを失ってしまうのでしょうか。誰に、なにをもがれるのでしょうか。パーツがなくなるのはいつも睡眠している間で、朝になると顔に違和感を覚えるのです。そうして鏡まで早足で向かい、
こんな顔では外に出られないので、生計はテレワークで立てています。便利な時代に救われているようなものです。これが昭和だったらと思うと、独り者の私はゾッとします。
「きっと村八分にされ、石を投げつけられるんだ……」
けれど、喉元過ぎればなんとやら。私は日々に慣れると、『あの日』を忘れかけます。こないだまで、まだ数年後か――なんて高をくくっていましたが、魔の審判はもうそこまで迫っていました。今わたしにできるのは、日々を
医者になにができますでしょう? 胡散臭い呪術師に大枚をはたくのは論外。
メディアのオモチャになれば、生活が楽になるかもしれませんが――
さて。とうとう、あすがその日です。
もし口がなくなったら呼吸できずに、死んでしまいます。そうなった方が救われると思いましたが、こんな私でも死への恐怖はあります。おこがましい人間です。
あるいは眉毛がなくなったら――ヤンキーみたいになってしまいます。コンビニの前で、うんこ座りしながら焼きそばパンを食べなくてはいけません。
実に困ります。
私は耳なし芳一になった気分で、知りもしないデタラメなお経を唱えました。できることなら、夜よ明けないで! 一番取られたくないのは髪の毛です! 『
外は日が暮れ、にわか雨がどんどん強くなり、ノックさながらに家の窓を叩いています。一筋の稲妻と轟く遠雷は、チャイムの代わりなのでしょう。
もう耐えられません。そうだ、朝まで晩酌をしよう! 台所の戸棚にあったスコッチをロックでいき、むせながらの全身麻酔です!
「取れるものなら取ってみろ、今日は寝ないぞ! しゃべり続けてやる!」
――けれど私の危惧に対し、この心身は持ちませんでした。大量にアルコールを摂取してしまったことも相乗し、私はなんと立ったまま意識を失ってしまったのです。気がつくと、上半身が慣れ親しんだベッドの柔らかさに埋まっていました。左耳からは小鳥のオハヨウが聞こえます。
どうやら、ちょうど横にあったベッドに倒れ、翌日を迎えてしまったようです。
鳥の声? つまり、もう片方の耳は無事です。私ははっとし、頭に手を伸ばすと、愛おしいフサフサが指先に絡みつきました。ありがとう――ハゲルヤ。
けれどこの世界はまるで夢現のようで、赤だか黒だかの視界しかありません。
きっと、私はまだ寝ぼけているのです。慣れないスコッチなんて飲むから、二日酔いの症状も出ていますし。
「はぁ……早く鏡の前に立って、なくなった部分を確認したいんだが」
了
かおなし法一郎 常陸乃ひかる @consan123
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