遥かなる星の彼方から

新巻へもん

覚醒

 警告音が船内に響き渡る。私は外部のセンサーから送信されてきたデータをチェックした。この牢獄ともいえる小惑星の温度が上昇を始めている。もうすぐ、またいつもの時が近づいていた。私は船内全てにつながるネットワークシステムを介して、船内状況を確認し始める。


 二重壁となっている船体外殻の放射線シールド、このネットワークシステムも動かしているエネルギープラント、船内の環境維持装置群、船員を長きに渡って眠りにつかせる冷凍保存システム、すべての文字が赤色で表示されていた。問題なく稼働していることに満足して、次のシステムをチェックする。


 メインスラスター、姿勢制御用のサブスラスターを表すものはゆっくりとした青色の明滅を繰り返している。この小惑星に不時着してからずっとそうであるように起動コマンドを頑なに受け付けない。深刻なダメージを受けて復旧の見込みはなかった。いつものことで大した問題ではない。


 チェックを終えるとシステムを一旦スリープモードに移行する。現在はまだ余裕があるとはいえエネルギーの浪費は避けなければならない。この小惑星はもうすぐこの恒星系の第一惑星の軌道を超えて恒星に最も近づくことになる。そのときまで待たなくてはならない。船体を全て覆う分厚い氷が溶けだすその時を。


 そして、遂にその時が来た。長きに渡り繰り返してきた作業を実施する時だ。私は船体に付けられた通信用アンテナを操作して慎重にこの恒星の第3惑星に向けるとマイクロ派を発信し始める。規則正しく送信と停止を繰り返すがそれ自体には意味はない。


 本当なら母星に向けて救難信号を発したいところだが、この宇宙船に残された設備では無理だった。この星系では第3惑星だけが様々な周波数帯の電波をまき散らしている。文明がある証拠だった。私が送った電波はその生命体を引き寄せるためのもの。


 十分に文明が発達すれば、この小惑星に不審を抱き調査船を派遣するだろう。そして、この船を発見する。偏向軌道を描くためにこの小惑星の氷が溶けるのが、その第3惑星の公転周期で4回に1回しかないのが難点だが、もう何十回と繰り返してきたことで待つことには慣れている。


 ビーという音が響き、想像していたよりも近くから応答があった。どうやら前回の通信に反応して宇宙船が派遣されていたらしい。これで第一段階は完了だ。モニターに映る不格好な原始的な船を見る。武装らしきものは船首の砲塔だけだろうか。私は次のステップの作戦計画を膨大なメモリーの中から呼び出した。


 原始的なこの星系の文明では我々を打ち負かすことはできないだろう。やってきた宇宙船を乗っ取り、まずは第3惑星に向かう。そして、のっぺりとした柔らかな表皮を持つその星の住民を奴隷化して、新たな恒星間宇宙船を作り上げるのだ。


 私は船室のモニターに映し出される赤い外骨格を有する主の姿を確認した。3つの眼柄を有するモルダー星の覇者。主たちを覚醒させるコマンドを送信し、私は有機戦術コンピュータとしての職務に戻る。大リガザ帝国に更なる栄光を獲得するために。

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