3
僕は、勢いよく押入れのふすまを開いた。
中に座っていた君は、丸く黒い瞳をころころと回す。
「お母さんが、遊園地につれてってくれるんだ!」
僕が嬉々として言うと、君は少し頷いて「そうか」と返した。
「よかったね」
「君もおいでよ」
しかし、君はゆっくりを首を振った。
「ううん、僕はここにいるよ」
「どうして?」
「ずっとここにいるんだ。ここで生まれたからね」
「そうか」
すると、家に来ていた女の人が僕の名前を呼んだ。
女の人は、シセツっていうところの人なんだって。
お母さんとずっと話してたけど、お母さんはこの人のことを話すと泣いちゃうから、僕はこの人があんまり好きじゃない。
「元気でね」
君はそう言うと、少しだけ、その真っ暗な空洞のような口元をつりあげた。
僕は少し間をあけて、頷いた。
「うん。君も」
押入れの戸を閉じた。
振り返って、そこに立っているお母さんと、シセツの人の元へ走った。
押入れ 夕凪 @suisen-sakura
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