湿った押入の中で、カビの匂いを深く吸い込む。

今日も嵐がやってきて、家を荒らしていく。


僕が膝を抱えていると、また君がやってきて、僕の隣に座った。


「痛くないの?」


君が、僕の顔の痣を指さして言う。

僕は痣を撫でながら答えた。


「痛くないよ」


「どうして?」


「これは、痛いじゃなくて、アイって言うんだって」


君は不思議そうに「ふうん」と言った。


「誰が言ってたの?」


「お母さん」


お母さんは、いつも僕にアイをくれる。


そして僕はまた立ち上がり、押入れから出た。

嵐が過ぎ去った後の、独特な匂いがする。

すすり泣く声が、籠ることなくはっきりと耳をついた。

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