押入れ

夕凪

暗い押入れの中、一人息をひそめている。

少し開いたふすまの隙間からそっと目をのぞかせて、外の嵐が止むのを待つ。


気が付いたら、君は隣にいた。

真っ白な、ぼうっと光るもやのような姿をした、君。人間ともつかないが、確かに頭があり、頭の大きさに似合わない銅があり、小さな手足がついている。


僕が押入の中で膝を抱えてじっとしていると、君はふと話しかけてきた。


「どうしてここにいるの?」


空洞のようにぽっかりと黒い君の瞳が、僕を見つめていた。

僕はそれに答えた。


「今は、お父さんがいるから」


「ふうん」


「君は?」


今度は君が答えた。


「僕は、ここで生まれたんだ。だからここにいる」


「そう」


それ以外、言葉を交わすことなく、僕は押入から出ようと立ち上がった。

外の嵐が過ぎ去ったようだ。


すると、君が首を振った。


「まだここにいなよ」


僕はまだ残る雨雲の匂いを感じながら、押入を開いた。


「お父さんがいなくなったら、僕の番なんだ」


だから、行かないと。

お母さんが呼んでる。

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