押入れ
夕凪
1
暗い押入れの中、一人息をひそめている。
少し開いたふすまの隙間からそっと目をのぞかせて、外の嵐が止むのを待つ。
気が付いたら、君は隣にいた。
真っ白な、ぼうっと光るもやのような姿をした、君。人間ともつかないが、確かに頭があり、頭の大きさに似合わない銅があり、小さな手足がついている。
僕が押入の中で膝を抱えてじっとしていると、君はふと話しかけてきた。
「どうしてここにいるの?」
空洞のようにぽっかりと黒い君の瞳が、僕を見つめていた。
僕はそれに答えた。
「今は、お父さんがいるから」
「ふうん」
「君は?」
今度は君が答えた。
「僕は、ここで生まれたんだ。だからここにいる」
「そう」
それ以外、言葉を交わすことなく、僕は押入から出ようと立ち上がった。
外の嵐が過ぎ去ったようだ。
すると、君が首を振った。
「まだここにいなよ」
僕はまだ残る雨雲の匂いを感じながら、押入を開いた。
「お父さんがいなくなったら、僕の番なんだ」
だから、行かないと。
お母さんが呼んでる。
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