四年に一度の記念日

幻典 尋貴

四年に一度の記念日

 『着いた』

 淡白なメッセージがスマホ画面に表示される。

『もうすぐ着く』

 と私も返す。

 四年に一度のデートが今年も行われる。


 変な形のモニュメントの前で「よぅ」とけんが手を振る。

 いつもと同じ待ち合わせ場所。この広場を囲む飲食店は入れ替わってしまったけれども、ここに来る時の気持ちは昔から全く変わっていない。

「待った?」と私が聞くと彼はニヤリとして、言う。

「待った、待った。あとちょっと遅かったら、隕石が落ちてきてたよ」

「もう!その事は忘れてって!」

 最初のデートで、私が朝ドラマの地球滅亡を本当だと信じて焦っていた時のことを彼はまだいじってくるのだ。

「本当になったら困るしな。じゃ、今日はどうしようか」

「いつも通りでいいんじゃない?」

「そうだな」

 私たちは広場を出た。


 健と歩く街は、いつもより光って見える。

「今朝さ、春也がやっと自転車乗れるようになったんだ」嬉しそうに健が言う。「すごいだろ」

「すごいだろって、健の事みたいに言うんだから。私の子でもあるんだからね」

 春也は私達の息子だ。このデートも四回目ともなれば、こんな話も話題に上がる。

「いや、自転車の特訓してたのは俺なんだからさ、ほら、な?」

「すごいすごい。よく頑張りました」そう言って私が彼の頭を撫でると、恥ずかしそうに避けられた。

「さすがにこの歳でそれは恥ずいって」

「そうだよねぇ。いつのまにか二十代も終わっちゃってたし」

 車は飛ぶし、どこにでも行けるドアは開発されるし、時代はどんどん変わっていく。

「春也が大きくなったときには、どうなってるんだろうね」

「少なくとも、隕石は落ちてないだろうなぁ」

「そうだろうね」私は少し強く言う。

「悪かったって」と健が謝るのを見て、私は笑ってしまう。

 最初のデートの時は、このデートこそ特別という感じではなく、普通に他の日にもデートをしていた。そりゃ学生だったし、時間もあったから当たり前と言えば当たり前だが、今思えば、あの頃が羨ましい。

「このデートってさ、四年に一度だからこそ良いんだろうな」

 健は時々、心を読めるのではないかと思わせるような発言をする。

「そうかもね。本当はもっとしたいけど」

「今は一緒に暮らしてるわけだし、良いだろ。まあ、うるう日が初デートじゃなきゃこんなこと思いつかなかっただろうけど」

 付き合って一年以上デートをしてなかった異常性故の賜物かもしれない。

「そういえばさ、全然関係ないんだけど今朝のニュースで言ったの」

「何を」

「うるう日のうるうって、門に王って書くじゃない。これって、中国の王様がうるう日には仕事をしなかった事から出来たんだって」

 健がへぇと言う。多分ちゃんとは聞いてないのだろうなと目を見て思ったが、私は続ける。

「健みたいだよね」

 健そこでやっとこちらをしっかり見た。

「何でだよ。俺はちゃんと、春也をばあちゃん家に預ける前に遊んでやったぞ」

「違う違う、子育てのことじゃなくて」

「会社は今日は休みだぞ」

「知ってます」

「だってさ」私は立ち止まる。「健は私のために、毎回うるう日は仕事を休むでしょ」

 正式に記念日として決めた二十二歳の時と、二十六歳の時は仕事を休んでデートしてくれた。

「それは、そうだな」健の顔が少し赤くなる。

「ありがとうございます」

「まぁな、俺はこの家の王様だからな」

 健が腰に手を当て胸を張る。

「いつまでも付き添います、王様」

 やっぱり恥ずかしいなと、健と私は笑った。

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