祝え、閏年クイズ

snowdrop

四年に一度

「祝え! 閏年クイズ~」


 司会進行役の女子部員がタイトルを発表した。

 クイズ研究部の部室中央に並べた机を前に座るのは三人。

 会計、部長、書紀が強めに拍手する。そんな三人の前には早押し機が用意されていた。


「いまから四年前の二〇一六年二月二十九日の閏年、KADOKAWAが提供する小説投稿サイトがオープンしました。その名も『カクヨム』。本日で四周年、まさに誕生日を迎えた瞬間であります」


 いや~めでたい、声を上げて部長が手を叩く。


「今回は、閏年にちなんだ問題を五問用意いたしました。もっとも正解数が多かった人が勝者となります。正解したら一ポイント、誤答すればその人のみ、その問題は答えられません」


 はいはーい、と書紀が手を挙げる。


「優勝したら、どんな賞品がもらえるんですか?」

「名誉です」と進行役がきっぱり答える。

「やっぱり? 知ってた」


 書紀は、エヘヘと笑ってみせた。


「それでは出題します」


 進行役の言葉を聞いて、三人は早押し機のボタンに指を乗せた。


「問題。鹿児島市に本社を置く株式会社健康家族が二月二十九日を記念日に制定した、全国収穫量の七割近くを占める、生産量日本一の青森県産」


 ピンポーンと音が鳴り響く。

 問題文の途中で早押しボタンを押したのは会計だ。


「ニンニク?」

「正解です」


 ピポピポーンと軽快に音が鳴り響いた。

 部長と書紀は称賛の拍手をする。


「全国収穫量の七割近くを占める、生産量日本一の青森県産」『福地ホワイト六片』といえば、何という野菜の品種でしょうか、という問題でした。どこでわかりましたか?」

「最初、鹿児島市と聞いてもなにも浮かばなかったんですけど、青森と聞いてピンときました」


 三人は次の問題に備えて早押しボタンに指を乗せる。


「問題。二月二十九日は『富士急の日』ですが、次のうち、富士急ハイランドで実際に行われていない記念イベントはどれでしょうか? A『入場料無料』、B『宝探し』、C『泡パーティー』」


 選択肢が出揃ったところで、一斉に早押しボタンを押し合う。

 赤ランプが点灯したのは、部長の早押しボタンだった。


「泡パーティー」

「正解です」


 ピポピポピポーンと甲高く音が鳴った。


「富士急ハイランドは通常、入園料は大人が千四百円、子供が八百円、アトラクションを利用するためにはフリーパスの購入が必要となっています。四年前の富士急の日のときには、当日の入園料無料キャンペーンが実施され、さらに総額二百二十九万円相当の賞品がプレゼントされる宝探しイベントがかいさいされました」

「さすがに遊園地で泡パーティーなんてしないよな」


 部長が口元を緩めながら呟く。


「えっと、泡パーティーは、浜名湖パルパルで夏に行われているイベントです」

「やってるんかいっ」


 大声を出す部長の隣で、会計が吹き出していた。


「問題。オリンピック開催年なのに閏年ではなかった」


 問題文の途中で、書紀が早押しボタンを押した。


「パリ」


 ブブー、と音が響く。


「問題文をもう一度読み上げます。オリンピック開催年なのに閏年ではなかったのは」


 つぎに早押しボタンを押して赤ランプが点灯したのは、会計だった。


「一九〇〇年」


 ブブブー、と容赦なく音がなる。

 唯一解答権がある部長は、早押しボタンに指を乗せながら、読み上げられる問題文に耳を傾けた。


「問題文をもう一度読み上げます。オリンピック開催年なのに閏年ではなかったのは第二回パリオリンピックでしたが、次に平年で開催されるオリンピックは何年になるでしょうか?」


 読み終わると、部長は余裕を持った笑みを浮かべて早押しボタンを押した。


「二一〇〇年」

「正解です」


 ピポピポピポーンと正解を知らせる音が鳴った。


「ご存知でしたか?」


 出題者の問いかけに部長は、「計算しました」と、にこやかに答える。


「閏年というのは、原則四年に一度、季節と暦のズレを補正するために二月二十九日が挿入されるのですが、必ずしも四年ごとに来るわけではないのです。西暦が四で割り切れる年でも、百で割り切れる年は閏年としない、と決められています。なので百で割り切れる二一〇〇年は平年です。ちなみに西暦が四百で割り切れる年は閏年とすると決められているので、二〇○〇年に行われたシドニーオリンピックは閏年でした」


 会計と書紀は、そのとおりと言わんばかりに手を叩いた。

 三人の指が、それぞれの早押しボタンにかかる。


「問題。『鍵のない夢をみる』で第百四十七回直木賞を受賞した辻村深月ですが」


 このタイミングで、会計がボタンを押した。


「冥土めぐり」


 ブブブー、と音がなる。


「問題文をもう一度読み上げます。『鍵のない夢をみる』で第百四十七回直木賞を受賞した辻村深月ですが、ペンネームの『辻』の字は、ミステリー作家の誰からとったものでしょうか」


 読み終わっても、二人はすぐに押さなかった。

 沈黙が一瞬流れる。

 赤ランプが点灯したのは書紀だった。


「綾辻行人」

「正解です」


 ピポピポピポーンと音が鳴り響く。

 やったー、と、部長は笑みを浮かべた。


「他に『辻』のつく作家、知らんかったから。ラッキーでした」


 運も実力、と部長は書紀の健闘を称える。


「では最後の問題です。八年前の二〇一二年二月二十九日に完成した日本で最も高い建物といえば東京スカイツリーですが」


 三人の指はまだ動かない。


「東京スカイツリーと東京タワーの高さの差は」


 一斉に指が動く。

 赤ランプが灯り、早押しを制したのは部長だ。


「三○一メートル」

「正解です」


 ピポピポピポーンと甲高く音が鳴った。

 押し負けた~、とうなだれながら書紀は手を叩く。

 つられて会計も深く息を吐いた。


「優勝は部長でした」


 出演者の言葉に「ありがとうございます」と、部長は満面の笑みを浮かべた。


「答えの三〇一メートルと、二月二十九日の次の日は三月一日を意識した、いい問題でした」


 部長はお返しにと、出題者に拍手を送った。

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