お誕生日会へのお誘い

マサヒラ

お誕生日会へのお誘い

 四年という月日は長いだろうか?


 長いと言う者もいるだろうが、逆に短いと答える者もいることだろう。

 だが人の人生全体を見たらほんの一部分、一期間でしかないと私は考えている。

 人それぞれの捉え方次第だとは思うが、少なくとも人間の一生からすれば短いはずだ。


 では、四年という期間を長いと考える人はどう感じ、どう過ごしているのか?

 

 別に興味があった訳でもない。ただ単純に今年が閏年という事と、先月に出会ったある少年のせいかもしれない……



「お姉さんはいつが誕生日なの?」


 それは何気ない会話の中で出た当たり障りのない質問だった。

 

 私は今、ある少年と談笑もとい雑談をしている。

 少年とは、先月とある事情で出会い、一緒に遊んであげたことでこうして、それからも一緒に遊ぶような関係となった。

 別に私はショタコンではないので、進んで遊ぶようなことはなかったが、少年が度々私を訪ねてくるので何となく付き合ってあげている。


「誕生日? 七月十日だけど、どうかしたの?」


 私は唐突に誕生日を聞いてきた少年を、不思議に思いそんなことを聞いてみた。

 すると、少年は「実は」と切りだし、こう言った。


「明日、僕の三回目の誕生日なんだ!」

「そうなんだ、おめでとう。って、え、三回目? それは、どういう…………あ」


 少年から出た言葉。それは自分の誕生日が明日だという事、そしてその誕生日が三回目だという事だった。

 私は、その三回目という言葉に引っかかった。なぜなら彼は小学生しかも高学年くらいの男子だ。そんな歳の子供の誕生日が三回しか来ていないとはどういう事だろうと思ったのだ。

 だがそんな疑問も、明日の日付を思い出し、納得した。


「……そうか、二月二十九日。珍しい誕生日だね」


 ――二月二十九日。

 それは、四年に一度の閏年の時の年にしかない日の事だ。正確の定義では別に必ず四年に一度というわけでもないらしいが、基本的には四年に一回しか訪れない日といっていいだろう。


「そうなんだ! だから僕はまだ三歳だよ!」

「それはまた話が違うでしょ」


 別に二月二十九日が誕生日だからと言って本当に三歳な訳がない。実際には閏年以外の年には二月二十八日が誕生日として換算されるらしい。

 まぁ私も詳しいことは知らないから間違いかも知れないが。


「だから、ものすごく楽しみなんだ。なんせ四年に一度しか来ないからね。だから明日はお誕生日会を開くんだよ。――あー、長かったな」

「長かった? 何が長かったの?」

「四年前の誕生日にもお誕生日会を開いたんだけど、それっきりだったんだ。だから次にやるお誕生日会までずーっと楽しみにしてたからさ」

「去年とかその前の年とかはやらなかったの?」

「うん。お母さんが僕の誕生日は二十九日なんだからその日にしないとねって言うから。それに待ってる時間が長いとその分だけ楽しみが増えるって、だから……」


 あーそれで、この子は長いって言ったのか、と納得した。確かに、この子の歳からすれば四年という歳月は長いだろう。

 とはいえ、少年の母親ももっともなことを言ったもんだと感心もしたし、少年を納得させるにはうまい方便だなと感じた。多分、毎年行うには面倒なだけが本音なのだろうと思うのだが、それはまぁ置いておこう。


「それで、お誕生日会は何をするの?」


 だからこそ、私は何をやるのかが気になった。四年ぶりだと言うお誕生日会なのだから、結構なことをやるのかもしれない。


「えっとね、学校の友達たちとたこ焼き作ったり、ゲームしたりするよ。あとみんなからのプレゼントも楽しみだよ」

「そう、良かったね」

 

 案外普通のお誕生日会のようだった。まぁ、所詮は小学生のお誕生日会だ。そんな豪勢なこともできないだろうし、一日中やるわけでもない。至って健全な小学生のお誕生日会といえる。

 

「お姉さんも、明日来てくれるよね?」

「……え!?」

  

 だからこそ、その言葉には驚いた。まさか、私が誘われるとは思わなかったからだ。

 何せ、私と少年は一回りとまではいかないが、かなりの年の差がある。そんな私が小学生、それも男の子のお誕生日会に参加するのはかなりの場違いなんじゃないだろうか。


「ねぇ、来てくれないの、お姉さん?」


 少年が、私の顔を見続けてそんなことを言ってくる。少年の眼にはOKを貰うまで一切引くことのない意志を感じれるくらいには。


「……いやー、私が行くとお友達にも悪いし、何より少年のお母さんにも悪いでしょ?」

「大丈夫。お母さんにはもう一人増えるかも言ってるし、みんなは大丈夫だって言ってくれたよ」

「…………」


 なんて用意周到な子なんだと思うくらい、準備していた。ここまでされて私もNOとは中々に言いづらい。

 

 かといって、私としての問題はそこではないのだ。

 私が小学生の男子のお誕生日会に交じってもいいのかという点だ。世間体的に問題ではないだろうか。何かの間違い……は親御さんがいるから無いとしても、明らかに周りにはあまりいい印象は抱かれないはずだ。それは私の周りを含めてである。

 後、単純に私が恥ずかしい。いくら何でも、小学生の男子のお誕生会に参加したなんてショタコンの誹りを受けかねない。それだけは御免こうむりたい。


「……あっ、そうそう今思い出したけど、明日はちょっと予定があって、参加は出来そうにないかな……」


 だから私は、誤魔化すふりをして誘いを断ることにした。やっぱり、いくら何でも参加はまずい。


「そうなんだ……」


 明らかに少年の顔からガッカリするのが見て取れる。一瞬悪いことしたかなとは思い、罪悪感に捕らわれるが致し方ない。


「……だから変わりに今から、少年の誕生日プレゼントを買ってあげる」

「え」


 少年の落胆した表情から、今度は驚愕の表情に変わる。

 何もお誕生日会に参加しないからといって、私が少年の誕生日を祝ってはいけないという事はない。だから私は代わりに少年のためにプレゼントを買ってあげることにしたのだ。


「お姉さん、いいの?」

「もちろん。私だって少年の誕生日は祝いたいし、何より四年に一度だからね。今度は四年後になっちゃうでしょ。それとも四年後の誕生日にする?」

「ううん。今が良いよ!」


 もしここで、四年後でいいと少年が言っていても私はプレゼントを買ってあげていただろう。

 何故なら、私と少年のこの関係は長くないと思うからだ。いつ、もう少年と会わなくなるかも分からないし。何より四年後といえばもう少年は高校生くらいだ。私とかまっている時間など無いと思う。

 だから、今回が最初で最後に少年を祝えるチャンス。ただでさえ、お誕生日会に参加しないのだ。これからずっとその時に祝えなかった罪悪感を残すのも後味悪いし、何らかの形で少年を祝ってあげたい、これは私の本心でもあった。

 

「よし! それじゃあ、早速行こうか!」


 こうなった以上、善は急げだ。少年を連れて街に繰り出すことにした。


「ところで、少年は何か欲しいものとかあるの?」


 私がそういうと、少年は笑顔でこう言った。


「お姉さんが選んでくれるなら何でもいいよ!」と


 その時の私は、その少年の眩しいくらいの笑顔とその言葉で何だか、すごく言い難い気持ちになった。


 ……えっと私、別にショタコンじゃないよ、ね?

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お誕生日会へのお誘い マサヒラ @tamasii6

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