第2話

「いってきまーす。」


 そうして今日も味気ない一日が始まる。すっかり散ってしまった桜の木を眺めて、まだ少し窮屈なローファーの爪先で地面をトントンと叩きながら信号を待つ。何も考えずに信号を待っていると、車道を挟んだ向こう側にいつも一緒に行動しているグループの友達が居た。いつもは私以外の四人で登校しているのに今日は二人だけ。私は慌てて信号を渡って二人に近づいた。


「でもさぁ……正直鬱陶しくない? 」


「なんか合わないよね。」


 できるだけ元気よく声をかけるために吸った空気を全部飲み込む。私は引き攣った笑顔のまま、行き場の無くなった手でスカートの裾を握る。二人の二歩後ろを保ちながら、聞こえてくる誰かの愚痴に集中する。


「黙って一緒にいるだけだしつまんない。」


「それな」


 私じゃない、私のことじゃない。なんて一生懸命自分に暗示をかけるけど、心臓はどくん、どくんと大きく脈打ち始めた。私のことじゃない、だからいつも通り挨拶して、笑って隣を歩いて……。


「おはよ。……って何やってるの?」


「え?」


 後ろからぽん、と肩を叩かれる。いつも行動しているグループの残り二人だった。そのうちの一人が私に声をかけて、その声に反応して前を歩いていた二人も振り返ってこちらを見る。私は慌てて笑顔を取り繕って見せた。よし、これで大丈夫。きっとこれで二人もいつも通り挨拶してきて、四人で話し始めて……。私はいつも通り笑っていればいい。気付かないふりしておけば何も起こらない。……なんて希望とは裏腹に、二人は顔を見合わせるとくすくすと笑いながら続けた。


「別に私たち何も話してないよね?」


「そうそう、誰のことも話してないよね。」


 他の二人は「なんのこと? 」なんて首を傾げながら私を追い抜いていく。私はその場で立ち止まって視線を床に落とした。あの二人、私が聞いてたこと気づいてる……!?

 鼻がツン、と痛くなる。泣いちゃダメだ。たかがこんなことで情けない。

 私は荒々しく目元を拭うと、いつも通り笑って四人の後を付いて行った。


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事実は台本よりも奇なり。 夢望 @yume_mi

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