事実は台本よりも奇なり。
夢望
第1話
「じゃあ、いってきまーす。」
見慣れた近所の坂道を、まだまだ履きなれない靴でかけ下りる。ひらひらと降ってくる桜の花びらに気を取られて、坂道の先の信号が気が付かなかった。慌てて先に力を込めて立ち止まると治りかけの靴擦れがじんわり痛んだ。
近くの女子校に入学して2週間が経った。入学式の日には満開だった桜ももうほぼ散ってしまった様で、ここ数日の時間の流れの速さを実感する。女の子ばかりだし、中学からの友達も居ない高校生活でどうなる事かと不安でいっぱいだったけど、実際の女子校生活は拍子抜けするほど普段と変わりなかった。確かに男子は居ないので体育の着替えに部屋移動が必要なかったり、トイレが女子用しかなかったりしたことには驚いたが、少なくともネットで見るような女子校の裏側はないように感じた。中学時代の女友達と何ら違いは無い。女子校の女の子は男の目を気にしないから逞しい子やズボラな子が多いなんて言うけれど、中学の頃と何ら変わりない生活や友達を見るに恐らく中学の頃から男の子の目は気にしていなかったのだろう。それは女子としてどうかとも思うけれど。
「お、おはよう! 」
最近ようやく慣れてきた教室に足を踏み入れる。挨拶も程々に自分の席に荷物を置くと、たまたま席が近くで仲良くなった友達の所へ向かった。既に輪になって話している彼女らにできるだけ元気に声をかけると、皆は「あ、おはよう」と返すとすぐ元の会話へ戻ってしまった。これもいつものルーティーン。私以外の友達グループは全員電車通学で登校時から一緒なのだけど、私だけ徒歩通学なので私は大抵こうやって会話に置いていかれる。それでもその輪の中に入ってただじっと黙って話を聞く。みんなが笑えば私も笑う。それを毎休み時間繰り返せば一日が終わる。高校生活に不満は無い。友達もいるし授業もついていけている。
……ただ、居場所もなければ刺激も無い。夢見ていた青春はそこにはなかった。
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