11 演じる中には本性も出る

今回は、単にぼくが好きな話だからという理由で取り上げる。これまたネタバレしてから読むと興ざめなので、未読の方はまずこちらをどうぞ。

 

【最後のご奉公】SFPエッセイ020

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892340431/episodes/1177354054892767834

 

よろしいでしょうか? 以下はネタバレ全開で行きますよ。

 

今にしてわかったことですが、2005年ごろから書き始めたSudden Fiction Projectの中には「ASもの」と呼ぶべきものがいくつもあります。ASというのは「Autism Spectrum」頭文字を取ったもので「自閉スペクトラム」を意味します。共感能力の低さや、特定のもの・こと・行動への強いこだわりに特徴があります。発達の特性の一つですが、少数派なのでしばしば「自己中で空気を読めない変なやつ」扱いされます。ただその特性から一人で黙々と何かに打ち込むことに向いている人が多く、条件が整えば、すごうでの職人や演奏家、演技者、研究者などになる人も出てきます。


これはぼく自身にそういう特性があるから自然とそうなっていくわけですが、2014年末に始まった虚構エッセイにしても、

【神の領域】SFPエッセイ017

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892340431/episodes/1177354054892684940

の語り手も「ASもの」と呼べるでしょう。

 

【最後のご奉公】の語り手はいわばその究極の形といっていいと思います。この語り手は簡単に言えば「スマホのようなデバイスの頭脳部分」と呼ぶべきもので、つまり無生物です。「書くコスプレ」もいよいよ無生物の領域に入ってきました。

 

でもまあ読んでいただけばわかるように、この語り手は限りなく人間くさく、ちょっと気の弱い下僕のようなキャラクターです。ご主人には逆らえないけれど、だからといって完全に従う訳でもなく、腹のなかではご主人の行動を改めたいとあれこれ模索している。「こういう人、いるいる」という感じです。中には「自分と同じだ」なんて人もいるかもしれません。組織の中で忠実な部下の役割を全うしつつ、実は上司に改めて欲しいことがいろいろある、なんて人はみんな共感できるポイントと言えます。

 

この作品をどのように書いたかというと、【最後のご奉公】という大時代なお題に対して、いわゆる侍ものや、戦時下の話や、国や企業のスパイの話などを書いても面白くないので、何が最後の奉公をしたら面白いかなと考えていて、いきなり「古くなって捨てられる携帯電話(デバイス)」を思いついた。それだけです。

 

そこで「古くなって捨てられる携帯電話(デバイス)」を演じながら書き進めたら、なにしろぼく自身にASの傾向があるのでするすると入り込めて、あとはこのちょっと狙いすぎのエンディングまで一気に書けました。

 

そう考えると、「書くコスプレ」的には「無生物」という極北まで行ってしまったように見えますが、実は書いている内容を見るとわりと高階自身がそのまんま出ている(こういう狙った展開の趣味も含めて)とも言えます。

 

つまり、「書くコスプレ」には「世の中お金が全てである」と言い放つような自分とは異なる考え方をする人を演じるケースと、「古くなって捨てられる携帯電話(デバイス)」のようにガワだけ違って思考パターンは作家本人に近いというケースがあるらしいということが見えてきました。

 

ちなみに、どちらも面白いです。ぜひお試しを。

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