10 持ちネタをぶちこむ

しばしば用いる手法に「持ちネタをぶちこむ」というものがあります。次の作品を使って具体的に解説しましょう。まずはご一読ください。

 

【紫に決めた理由】

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892340431/episodes/1177354054892748408

 

いただいたお題【紫に決めた理由】を眺めていても、漠然として先に進みませんでした。だから最初に試したのは、少し考えれば誰でも思いつきそうな紫を選ぶ理由を列挙して、そのどれでもない、と言い放ってみるということでした。

 

少し考えれば誰でもおもいつく理由の話では、読む人が面白くないだろうと思ったこともありますし、一人ブレストをして紫に決める理由をあれこれ模索してみたわけです。

 

でもそこまで書き進んでも残念ながらいいアイデアが浮かんできませんでした。さあ、どうしましょう? こういう時には思い切って「話を脱線させる」ということをすると、うまく転がり出す場合があります。

 

ぼくはふだんから断片的に変てこなことを思いついてはそれを書き付けていたりします。設定のアイデアの種のようなものです。虚構エッセイのネタとして利用したものをピックアップするとこんな感じです。

 

・予算が全てを決める

・女装家/コスプレイヤー

・フィクションとは

・道化のすばらしさ

・名曲「むかついて原宿」

・無臭でいいのか? においこそ重要なのでは?

・最小コストで最大のゲインを求める卑しさ(教育、医療、その他)

・ものの視点で書く

・いつか口を封じられた日のためのトレーニング

・京都の怖い話。想像力というものの話。

・女の子がそんなことを言うもんじゃないと言われる、やりたくて仕方がない時がある女の子

・「ただいまの会」世界はたったいま神によってつくられた、という教義を信じる宗教団体。教祖とその姉。

・地球外生命体からの攻撃を受けたら人類は団結する。同様に天災に見舞われ続ける国と天災のが全くない国では国民性が変わるだろう。

・体毛の多い女が好きだ。

 

ここまでに紹介したものもありますし、これから紹介するものもあります。すべて公開済みの作品の中に使用済みです。よろしければ探してみてください。

 

さて、そんなわけで【紫の決めた理由】が見つからないので、いったんその話題から離れて別なことをひとしきり書いてみることにしました。そこで選んだのが上にも紹介した

 

・無臭でいいのか? においこそ重要なのでは?

 

で書いてみることにしました。この時点では本当にこの1行分くらいしかアイデアはありません。やたら「無臭」と聞くけれど、体臭を含めてにおいって重要な情報なんじゃないの? 消せばいいってものじゃないんじゃないの? と感じていたのです。

 

そこでこの話をまたひとしきり書きます。書いている間も、もちろん「どうして紫に決めたのかな」なんてぼんやり考えています。でも当面はにおいの話に集中します。そうこうするうちに

 

  本当はあるものなのに、「なかったふり」をするのは危ないことです。

 

というフレーズが出てきました。ビンゴ! です。ここから話を戻すことができます。次の一節で“「オール・オア・ナッシング」とか「白黒をはっきりさせる」とかいう言葉”の話をして、「ゼロリスク」という言葉の持つ問題点を指摘して、それで本題に戻ってくることができました。

 

SFPエッセイでは即興的に書くことに決めているので、このようにはっきりとしたあてもなく書き出すことがままあります。経験上、だいたい何とかなると知っているので勝算などなくても書き進めます。そうしてどこかしらでこうやって接点を見つけ出すことになります。

 

すごくうまくいくこともあれば、ほとんどこじつけという場合もあります。まあそこはご愛嬌です。毎回パーフェクトを狙っていては先に進まなくなります。ぼくにとって即興的にものがたりを紡ぐことは「書く筋トレ」のようなものなので、つべこべ言わずにどんどん書くしかないのです。ちゃんと書こうとすると書けなくなるタイプの物書きなんですね。

 

もちろん、このようにして話がつながって、最後まで書き終えてから、あまりにも辻褄が合わない場合や、こじつけ感が強すぎる場合には、その後読み返して、言葉を足したり削ったりします。理屈めいた部分を補強することもありますし、矛盾が生じる言葉を取り去ることもあります。後ろの方で出てくる話とつながるような情報を最初の方に伏線的に書き加えることもあります。いわゆる推敲の作業を、辻褄合わせのためにやっていると言ってもいいでしょう。

 

書き進めて筆が止まったら、あえて全然関係ない話を、できればその時点で自分自身が興味を持っていてひとしきり考察を巡らしたいネタを持ってくると、そこから思いも寄らない展開が見つかる場合もあります。読む側からしても、話が一本調子にならなくて楽しい、というメリットもあるはずです。失敗すると、ただとりとめない話になってしまうのですが(笑)。

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