【紫に決めた理由】SFPエッセイ019

 しばしば「なぜテーマカラーを紫にしたのですか」と聞かれるのでこの機会にまとめておこうと思います。

 

 まずは、みなさんからよく投げかけられる「理由の候補」について、一問一答形式でお答えしておきます。

●高貴な色だから?

 それはテーマカラーについて語り合う中で知りました。いいイメージだな、とは思いますが、それが理由ではありません。

●『源氏物語』が好きだから?

 中学か高校の時に教科書で読んだ以上は読んだことがありません。世界で最初の長編小説だと聞いて素晴らしいと思うけれど思い入れがあるほどではありません。

●大切な人の名前では?

 違います。直接の知り合いに「紫さん」はいませんし、源氏名が「紫」の女性の知り合いもおりません。みなさんはそちらを期待されているようですが。

●紫蘇ふりかけが好きだから?

 違います。「ゆかり」は好物ですが、私たちのテーマカラーとは関係ありません。

●醤油が好きだから?

 醤油をムラサキと呼ぶことは知っていますが、特に思い入れはありません。醤油はないと困るけれど、とりたてて好きということはない、空気のような存在ですね。

●民自党の青と主民党の赤をまぜたから?

 はっきり「違います」とは言い切れませんが「違います」と答えたくもあります。

 

 はい。ここからが本題です。まず私たちは政党ではありません。これは、はっきりさせておきたい。政策の一致する人たちが集まる団体という本来の意味の政党でもないし、日本の政治史の中でできあがった一種の利権代表団体としての政党でもない。なので既存の政党のテーマカラーの話と、私たちのテーマカラーの話を混ぜてしまわないほうがいいと考えています。でも、民自党の青と主民党の赤のことを頭に思い浮かべなかったというと嘘になります。紫はその二つが合わさった色というのも悪くないと思いました。

 

 テーマカラーについて仲間と話をしている中では、いろいろなアイディアが出ました。映像で使われる「RGB」のREDとBLUEは既に二大政党のカラーとしてあるのだから、残るGREENがいいのではないかという意見もありました。でもこれをやっちゃうと、既存の二大政党と同列の話、政党のテーマカラー選びの話になっちゃうんですね。これは違うと。しかも最近じゃ民自党さんが「グリーンピース」や「緑の党」的なポジションを先制するためでしょうか、緑を使ったキャンペーンも始めておられますしね。緑色は非常に早い段階で候補から消えました。

 

 それに、かつて「超党派」という言葉がよく使われましたが、あれも政党や党派があるのを前提にしているので違うんです。「超党派団体」みたいに見えるのもよくないと考えているんです。もう、そういうことじゃないんです。なかなかわかってもらえないんですけどね。

 

 ちょっと脱線します。体臭ってあるじゃないですか。ぼくなんかの年齢になると加齢臭がどうのこうのと言われるようになります。一昔前に孫がおじいちゃんの入れ歯が臭いというコマーシャルがありましたが、あのあたりが「におい」を悪とする社会的なプロモーションキャンペーンの始まりだったかと思います。その後、体臭、口臭、汗、ワキガ、タバコの煙やペットの臭い、生活臭のことごとくを消そうとし、ペットばかりか人間の糞尿からもにおいをなくす食べ物が開発され、最近では加齢臭だけでなく、各年齢ごとの年齢臭を消そうというようなキャンペーンも見かけます。

 

 社会全体が「無臭こそ善だ」と信じているように見えますが、もしも本気で信じているとすると、その社会はちょっと頭がどうかしているんじゃないかと思いますね。

 

 においは情報です。そこには重要なサインが含まれていることがあります。においがあることに価値があるのであって、無臭にすると良いサインも悪いサインも見落とすことになります。体調に関するサイン、衛生状態に関するサイン、発達の状況に関するサイン、身の回りにふんだんに示されていた重要なサインを、社会全体で手放そうとしている。異常事態です。現代人はそれが異常だということがわからなくなっているかもしれませんが、たぶん22世紀の人が見たら「そんな馬鹿な。何を考えていたんだ21世紀初頭の人々は」とあきれ返るくらい異常事態です。

 

 においの復活を考えるとき、良いものも悪いものも区別してはいけません。良いにおいは残して悪いにおいは消したくなるかもしれませんが、それは好ましくない。むしろ、消したくなるような「悪いにおい」ほど緊急で重要なサインを示しているからなおさらです。悪いにおいは原因を見極めて対策をして減らせばいいのです。薄めれば良いのです。ひどい悪臭源を薄めて香水を作った事例はみなさんご存知のはずです。良いにおいと悪いにおいは正体は同じものである可能性すらあります。

 

 うまく消せないにおいを隠すための「良いにおい」が足されることもありますが、その「良いにおい」のせいで頭痛を覚えたり不調を訴える人もいます。ましてや、悪臭の原因をそのままにして臭いだけ消すなんて危険きわまりない話です。個人で言えば、重大な体調の変化を見逃すことになるかもしれません。社会で言えば、疫病の発生を防ぐタイミングを逃すかもしれません。本当はあるものなのに、「なかったふり」をするのは危ないことです。

 

 似た話に「オール・オア・ナッシング」とか「白黒をはっきりさせる」とかいう言葉があります。すぱっと潔い感じがあります。でも現実の世界に「オール」という状態も「ナッシング」という状態はありえません。実際にはそこにあるのにないふりをするのは、においの原因をそのままに無臭化をはかるようなものです。白黒つけてどちらかを切り捨てる姿勢も同じ危険をはらんでいます。大多数は白でもなく黒でもなくグレーだったり有彩色だったりする。それを無理やり「あっちかこっちか」に分けて、気に入らないものを切り捨てる。うまくいくわけがありません。無臭の振りをしてもにおいの大元はずっとそこにあるままなんですから。「ゼロリスク」という言葉にも同じような「危険なにおい」を感じます。ゼロリスクなどということはありえない。これも「本当はあるのになかったふりをする」ことを意味します。

 

 威勢のいい言葉には気をつけた方がいいのです。

 

 テーマカラーの話でした。だから私たちは赤も青もいいじゃないかと考えています。どっちもあっていい。だから足して紫に見えるならそれもいい。もっと言えば、他の全ての色もいい。でもそれを全部足すと黒になるか、白というか透明になるかのどっちかです。それも「白黒つけ」過ぎていてやり過ぎ感があります。紫くらいがちょうどシンボリックでいい。それに紫は、人間に見える可視光線と、人間には見えない紫外線の境目に位置していいます。これもいい。まだ顕在化していないできごともカバーできそうです。声なき声、水面下の動きも見据えたい。反対側のはじっこに赤外線というのもあるんですが、それでは「超赤」「赤よりも赤」みたいになっちゃいますから、ちょっとね(笑)。

 

 というようなことを、仲間たちと延々やりあってきたわけです。その晩も、仲間と集まって飲んだり食べたりしながらわいわいとやりました。そこには老若男女合わせて20人近くいました。民自党の議員も主民党の選挙参謀もコミュニティスクールのママさんも選挙好きの未成年のタレントさんも音楽誌の編集長も地方独立国の元首たちも18歳成人を唱える高校生たちも一緒になって、徹夜で話し合っていました。明け方になって部屋の空気を入れ替えようとカーテンを開けた瞬間、この色が目に飛び込んできたんです。地平線に滲む赤みから天頂の濃紺までに間にはいろいろな色がグラデーションであったはずです。でも一番目に飛び込んできたのはこの色でした。夜明け前のきわどい一瞬。今から何もかもが始まる、その直前の色。とどまることなく、次の瞬間にはもう違う色に変わってしまう変化し続ける色。部屋中から、ああ、というため息が漏れました。これだね、と誰かが言いました。

 

 それが、紫に決めた理由です。いい話でしょ? でもね、テーマカラーが決まって、みんな引き上げた後には、身支度の時に使ったらしい制汗剤やら消臭剤の匂いが残ってたんですよ。また窓を開けて換気しました。まずは身内からだなと思いながらね。その時にはもう、まぶしい光がいっぱいに溢れていました。ありとあらゆる色が氾濫していました。目指すのはそこです。

 

(「【紫に決めた理由】」ordered by 阿藤 智恵-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・政治団体・秘密結社などとは一切関係ありません。

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