第8話 力を持つということ
翌日、センリの授業でアルエーリ、ミラ、サージにはそれぞれ二対の短剣、薙刀、小筒が手渡された。
「先生、これ何ですか?」
アルエーリの言葉に他二人も同じ疑問を持った顔でセンリを見つめる。
「院長から君達へプレゼントだそうです。運動能力のあるアルエーリ君には短剣、ミラさんには力勝負にならずにリーチを保てる薙刀、知識豊富なサージ君には銃でなく筒を、とのことでした。今日から三人はそれを使って武術錬技に出る為の訓練を行って下さい」
「ちょっと待ってください」
一人の生徒が割って入る。
「それはいわゆる特別扱いということですか?」
当然の意見だ。内部干渉向きだと言われた昨日の今日で武器を持たせたら、誰から見ても贔屓であると一目で分かる。
そんな疑問を、自分たちがないがしろにされているのではないかという疑惑を、センリに問いかけていた。しかしセンリは鋭い眼差しで真っ直ぐそれを否定する。
「それは違います。外部干渉に向かない彼らには別に戦うための術が必要になります。目に見える形でれっきとした武器を与えることが、皆さんにとってどう映るかも理解しています」
「だったら!!」
「皆さんには錬天術士という存在そのものが力を持った一つの凶器であることを自覚して頂きたい。日頃あなたがたの周りで使われている錬天術とは、使い方一つで隣の友を簡単に殺す力です。殺す力を守る力に出来るかは、使用者の心根一つです」
静まり返る屋外に、ざぁっと靡く木々の音だけが響いた。
それは、生徒世代にはなく、教師世代には実感を持って語ることの出来る、戦争という記憶が示す説得力。
戦争で親を失った生徒こそいれど、戦争で殺し合いをした生徒など一人もいないのだ。
だからこそこの場で誰一人として反論することは出来ない。
「ですので、私が皆さんに教える錬天術が誰かを守る為に使われることを願っていますよ」
いつもの優しい表情に戻り、そういったセンリの顔はそれでも少し悲しそうに見えた。
「さて、授業を始めましょう」
そうしていつも通り授業が始まった。
「皆さん、干渉物の形を頭の中で明確にイメージして下さい。それが自分の握る手と同じ感覚を持てたら上手く干渉出来ます。あとはシルヴァリウス先生の授業を応用して武器の強度を上げてみてください」
錬天術は感覚的要素が術の出来不出来を左右する。
どういう形に机を変形させるか、手に持っている枝が、武器が、どんなイメージで自分と結合しているのか、それがはっきりと浮かばなければ現実の世界に正しく表出しない、いわば『想像を現実に投写する力』が錬天術の本質と言える。
だからこそ内部干渉系の術は想像を受け付けないことが多い。誰も自分の身体が枝と融合してるなど、思い描きたくは無いから。
かくいう俺も実際のイメージは、自分と剣が磁力のような目に見えない力で繋がっている、位の感覚でいる。
炭素を結びつけるという意味ではあながち悪いイメージでは無かったからこそ一目置かれる結果になったのだろう。
錬金術士の栄枯盛衰 十和 光 @hikarinaga_hikaru
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