夏のプール
耀綺夜空
第1話
青い空に巨大な入道雲が浮かんでいる。うるさい蝉の鳴き声は、太陽の強い陽射しに比例しているかのようだ。
小学校が夏休みに入ったというのに小学三年生の花井洋子の家は、いつだって家族で出かける予定はない。
洋子の両親は、ラーメン屋を営んでいた。定休日には、買い出しと仕込みで土日祝日、夏休みも忙しい。
夏なんて暑いだけだ、と洋子はいつも思う。
うだるような暑い日中、両親がいない時はクーラーはつけない。家にいてもテレビはワイドショーでつまらなく、ふと外に出た。ぬるい空気が洋子の身体に絡まる。太陽の日の照り返しが眩しくて少しふらつきそうになる。そんな時、
「コケコッコー」と鳴き声がした。
洋子の家の裏五軒先の洋子の同級生の玲奈の家からだ。昨年の神社のお祭りの露店でひよこを釣って持って帰ってきたのが大きくなったのだ。
玲奈を誘って鶏と遊ぼう。そう思い玲奈の家のインターホンを押した。
玲奈が玄関から出てきて、玲奈と洋子は玲奈の家の庭で鶏と遊んだ。鶏は、逃げ出すと捕まえるのに苦労する。
洋子も玲奈も走り回ったせいで額や首に汗をかいた。
近所のタバコ屋さんで洋子ものポケットmのなかにあった二百円でソーダ味のアイスを二本買った。二人は、タバコ屋の店の前においてある木のベンチに座ってアイスをなめた。
「暑いからどこかいきたいなあ」と洋子が言った。
「うん」
「プールに入りたいな」
「うん」
「プールね、一度だけ大きなプールに入ったことあるんだ」
「私、ないよ」アイスが、玲奈の持つ手に溶けている。
「行かない?」洋子はアイスを食べるのを止めて玲奈の顔を見た。
「行きたい!」玲奈はアイスを持った手を天高くあげた。
「そうだ、達也くんも連れていこう」玲奈の隣に住む、同じく平屋の家の息子だ。
達也は、玲奈のいうことは嫌とは言わない。
おとなしいのではなく、玲奈が強いのだ。
洋子にはいい考えがあった。アイスを食べたら、明日のプールへ行く約束をして家に二人は帰った。夕刻の空は、オレンジ色に染まり陽は和らぎ、ヒグラシが鳴き響いていた。
洋子の母が、いつもドレッサーの椅子の座るところが開くようになっている。母は、そこにお札を入れているのを、洋子は何度か見たことがあった。
それをいただく魂胆だ。
次の日、洋子の家の窓に太陽の日が差し込んでいる。いい天気だ。あの椅子からお札を二枚取ってきた。プールの用意をして、「学校のプールに行って来る」と母には言った。洋子が、外に出ると玲奈が近くの木の下で洋子を待っていた。達也もプールの用意をして、水着の入ったカバンを足で蹴りながら嬉しそうに動き回っている。
タバコ屋でお菓子とアイスを三人は買い、一万札を店のおばさんに渡すと、驚いた顔でお釣を渡してくれた。相変わらず蝉がうるさくないている。走って三人は、バス停のベンチに座った。
バスは、すぐに来た。バスの中は日中の暑さもって人が数人乗っているだけだった。後ろの席に三人は、座った。
目的場所に着き運賃を払い、バスを降りた。
洋子は、一度来たことがあるので馴れたもんだ。バスを降りたらすぐそばにプール場があった。
三人は、浮き輪に空気を入れて、水を掛け合い楽しんだ。
楽しみの過ぎて帰る時間を忘れていた。バスに乗って家に帰る頃には、藍色の空から暗闇へと変わった頃だった。
玲奈の母親が、「玲奈は、どこか知りませんか?」と洋子の家に来たらしい。
洋子は、今日のことを母に言った。
洋子は、母に連れられ玲奈の家に行って、謝った。
そして、もうそれ以降玲奈と遊ぶことはなかった。
中学生になり、玲奈にはいつも回りに沢山の友達がいる。
あのプールに一緒に行かなかったら、仲のいい友達の仲間としていれたのかもしれない。
夏のプール 耀綺夜空 @daikitikiti24
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