第24話 深淵なる闇
連日続く勝利の宴。
飲めや歌え、踊れや騒げの大騒ぎが続く中――
真黒は岐路に立たされていた。
――さぁて……どうしたもんか。
キムが『オラ、シャチクのダンナも飲んで飲んで』とやってくるが無視。
――先延ばしにしていたが……そろそろ、はっきりさせなければならない。
クリームも『どーしたの、つまんなそうにして』とやってくるが無視。
――俺の行動目的を。未来のビジョンを。何を成したいのかを。
『こりゃ手ごわいわ』と肩をすくめるクリームに、エロインが『マクロさんは私にだけは優しいんです』と自慢げにやってくるが、それも無視。
――最初は、クソみたいな上司に無茶を言われてる勇者に、昔の自分の姿を見て同情しただけだった。
だが、とりあえずの目的は果たした。自分はここまでだろうか。
いや……ここで見捨てるのは少々酷か。だったら、魔王討伐をなんとかして事業化して、もっと安定的に活動できるように道筋を整えるところまでは手伝ってやるか。
――なんのために?
そもそも、自分はもと居た世界でもう一生分は働いて過労死しているのだ。
異世界にきてまでなぜまた働かなければならない?
正直、もうなにもしたくない。
ニーアの森みたいな自然の中でのほほんと生きて、そのうち朽ちて。
そんなもんでいい。
わずかな良心が痛む。
『幼いのに己の使命に正面から向き合っていて、こんな自分になついてくれていて、純真で頑張り屋で……そんなあの少女を見捨ててもいいのか?』己の心のうちに発生したその問いへの答えは――
――どうでも、いい。
プロジェクト遂行中はいちビジネスマンとして、未来の計画まで見据えた行動をとっていた。
継続性を考慮した資金調達手段の模索。
意識的にリーダーらしく振舞い、メンバーとのコミュニケーションも十分にとった。
ノウハウ蓄積のため、実行部隊は誰一人犠牲を出さずに余さず持ち帰るようにした。
だがプロジェクトが完遂された今、操り人形の糸が切れるように彼の心の内は虚無に支配されていた。
そういったあれこれが、もはやどうでもいい。
ベロベロに酔わされたエロインが、キムに宿屋に連れ込まれそうになる。
彼の行動に目を光らせていたルドルフがすんでのところでそれを阻止する。
そんな足元でのイザコザも、真黒はまるで興味を示さず広場の隅で一人、ちびちびとワインを飲み続けていた。
*
プリマレーノ。C形に連なったこの星の大陸の数々――その南東端に位置する、この世界で最も穏やかな小国である。
そしてその星の北東端に、"それ"はあった。
魔王城――
瘴気に満ちた玉座の間に、おぞましい造形の漆黒の甲冑に全身を包んだ者が鎮座している。
彼の者こそが、魔王――
”魔王アビスドランタル"その人である。
玉座の間には、魔王以外の魔物の影は1つもない。
瘴気を浴びただけで死んでしまうからだ。
「今……痛みを感じた」
魔王は、ボソリと呟いた。
その一言を、別のフロアにいた腹心"パゴス"が敏感に聴きつける。
「どちらでございましょうか」
パゴスは、魔王へと念話を送った。
「南東……これは、バルボルデか」
「次の勇者が、活動を開始した――ということですな。どういたしましょうか」
腹心の言葉に、魔王はフン、とひとつ鼻を鳴らして言う。
「いつものとおりでよい」
「ハッ」
"いつものとおり"とは――勇者の能力の調査だけ行い、脅威にならなそうであれば捨て置く、ということである。
かつて魔王の足元に最も迫ったのは、初代勇者ブランである。
初代勇者ただ一人だけが、数多の魔将を打ち倒し自分の足元まで来ることができた。
それ以来、全ての勇者は自分の姿をその目にすることすらできていない。
どうせ何度潰しても虫のようにどこかから湧いて出てくるのだ。そんなものをいちいち相手にしていても仕方ない。
「それでは、調査の者を向かわせます」
パゴスはそう言うと、その姿をスッと闇に消していった。
異世界社畜 すきぴ夫 @BARCA_KAKUYO
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