第5話 千鶴を犯す
おいおい、嘘だろ。なんつぅイベントが始まろうとしてんだよ。背中洗いか? 息子しごきか? 何でもいいが、千鶴は俺の事嫌々そうにしているじゃないか?
そんな俺に何なんだ?
気付かないふりをして待っていたが、一向に風呂場の扉が開く気配がない。そして彼女は洗面所から出ていってしまった。
ふざけんなよ。
もったいぶった千鶴の真意の意味がわかなかったが、風呂場を出た事でその理由が分かった。
──着替えがない。
千鶴は着替えがないと言った。そう……あいつは俺の寝巻きを着ているのだ。
そしてそこにあった、千鶴と同じバスタオルを腰に巻いて、そのまま洗面所を飛び出た。
「さーてと。千鶴はどこかな?」
「ん、なによ。あと、あんたは床で寝てよね絶対!」
時刻は10時くらいだろうか。
先ほどより電気の明るさが落とされ、薄暗くなった部屋では、ベットで大きく布団をかぶって、こちらに後頭部だけを晒してい、スマホをいじっている千鶴の姿。俺の寝巻きを着ているのを隠しているのががバレバレだ。
絶対という言葉を協調しているのがその証だ。
俺が千鶴を呼んだものの黙っているため、不思議に思ったのだろう千鶴はこちらを向いてきた。そして、
「はっ!? どーゆーつもり!」
眠そうだった千鶴の目は、俺がタオルだけ腰に纏った姿を見て目を見開かせた。
「どうもこうもお前が悪いんだ」
そして近づいていくたびに、青ざめていく千鶴だったが、もう俺は止めない。すると千鶴は布団に潜り込み、それを剥がれんばかりにがっちりと四肢で固めたようだ。
「やだ、やめて」
布団の中からぐぐもって聞こえて来る千鶴のその声は、恐怖に怯えたような声だった。しかしそれは加虐心を増すものに過ぎない。ビクビクしているようだった。
だが俺はみくびらない。特に今はもう夜だ、ちょうどいつもなら俺が自慰に勤しむほど性欲が昂る時間だ。
つまり深夜テンションみたいなものだ。
モゾモゾと布団の中で蠢く千鶴を、ベットにまたがり覆いかぶさる形で見下ろす。まるで寝込みを襲っているかのような背徳感に俺はさらに興奮した。
「ダメ! バカ!」
しばらく固まっていると、布団から小さい顔だけをゆっくりと覗かせて、それを俺は見下ろす形で、真っ向から向かい合い、千鶴の顔は俺の影で暗くなった。
それはすっぴんと言うやつだった。化粧前と化粧のとで明らかなのは、眉毛がカールしてるからしてないかだった。他は分からなかった。
でも確かなことは一つ、千鶴はやはり変わらず美少女であるということだ。
「……どう……して?」
千鶴は長い睫毛に涙を溜め、それと共に掠れた子でそう口にした。
「さてと、寝巻きを返してもらおうか」
「寝巻き? 何言ってるの?」
「とぼけるんじゃない。お前、俺の服を着ただろ」
「え? 着きるわけないじゃん」
「じゃあそこに畳んであるお前の今日着ていた私服は何だ」
「……だから、しょうがないじゃん。着替えないし、同じの着たくないもん!」
「それは俺の服を着たって事を認めるんだな?」
「だからさっきから何言って!」
そもそも彼女は俺が着るはずだった寝巻きを着ているくせに、俺に服を返させようとすると、なぜそんなに本気で怯えるのだろうか。
そして千鶴の額の横に手を伸ばす。
「嫌っ!」
そう言って目を強く瞑らせた。
そして俺は布団の角を掴み、ひっぺがそうとした。
「ヤダっ! お願いだから!」
だが千鶴は、布団を剥がされんばかりに引っ張り返すように本気で抵抗してきた。千鶴の本気は知らないが、何故かこの力は本気なのだろうと分かった。
しかし千鶴の握力が男である俺に勝てるわけもなく、布団を引っ剥がすことができた。
そして咄嗟に目に入ってきたのはおっぱいだった。おっぱいだった。
──お、お、おっぱ、お、おっぱ、ぱ、おっぱい!?
千鶴は本当に俺の寝巻きなんか着ていなかった。そう……何も着ていないのだ。そして彼女は着痩せするタイプだということが分かった。
そんな千鶴は、諦めたようで額を横に向かせ、それを両腕で交差させて覆った。
「やめ……私……下手だから……」
聞き取りづらい涙声で、千鶴は切なそうにそう発した。
そして俺は我に帰った。
あれほど嫌がっていた彼女を押しはからって、無理やりその裸体を晒させた。女子の気持ちはわからないが、きっと千鶴はその事に大きな抵抗があるのだ。しかしそれをさせてしまったため、俺には分からない、もしかしたら計り知れないほど絶望させてしまっているのかもしれない。
千鶴の形の良い乳房を見つめたままだが、不思議と俺は官能的にならなかった。あれほどオカズにしていた美少女のそれを見てもなお、俺は唆られない。加虐心でも背徳感でもない。
理由簡単。それ以上のもっと大きな罪悪感を感じているのだ。
「ごめん!!」
慌てて剥がしていた布団を乱暴に千鶴にかけ直した。
反省しよう。俺の行きすぎた行動が全て悪い。男子と女子とでは価値観が違うのだ。
この生活は終わりだ、彼女に通報されて、終わりだ。待っていよう、あの男性でも警察でもいい。俺は罪を犯したんだ。
「本当にごめん」
布団の中で、千鶴は黙ったままだった。
何分だっただろう、数分、数十分。俺はタオル一枚という姿で床に座り壁に寄りかかっている。
千鶴は泣いていた。今も泣いているのだろうか? 俺はとんでもないことをしたのだ。
俺にはもう何もする権利はない。だから千鶴から何か言って欲しかった。
「ねぇ綾斗」
唐突にそんな声が横から聞こえてきた。今度は涙声ではなかったが、どこか切なそうだった。
「見た?」
「見てないと言ったら嘘になる」
「そっか」
「本当にごめん」
「……」
布団が寝返りを打ったように、ごそっと動いたのが分かった。
「ねぇ綾斗」
声が大きくなった。千鶴は今、俺の方を向いているのだろう、
「何?」
「どうだった?」
「どうって……」
「……察してよ」
「……えっと…………綺麗だった」
再びごそっと布団が動き、千鶴は
「……ありがと」
小さくなった声で、そう言った。それから何もなく、数分で千鶴は寝息を立てはじめた。
千鶴の胸を許可なく無理やり見た分際で、その上感想を言って感謝される。罪悪感が酷かった。
でも何だろう……この時の千鶴の言葉と口調は優しかった。
あの時、千鶴が洗面所に入ってきた理由はわからないが、俺は最悪にも寝巻きをトイレに置いたままだったことを思い出し。明日どうやって償おうか迷って、その場で眠りについた。
夜に素直な彼女 カクダケ@ @kakudake
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