おしまい。
「それでお兄ちゃん、お休みの日なのに制服着てるんだ」
「まぁ、そういうわけでございますよ……」
今日は土曜日、服部君たちが派手にやらかした事件のおかげで今日、停学には処されない代わりに詳細不明のボランティア活動に精を出すことを強いられていた。。
冷静に考えると俺は何も悪くないのだが、異議を申し立てる間もなく仲間扱いされてしまったのだ。まぁ元はと言えば俺が原因なのだから彼らを責めることは出来ないわけだが……一躍有名人になってしまったよ、良くない意味で。
いや、それにしたっていくらなんでもやり過ぎだと思う、普通に危ないし。一発で退学処分はないにしたってもっと大きいペナルティが課せられたっておかしくないレベルじゃなかろうか。
ちなみに事件当日の家族会議は熾烈を極めたのは言うまでもないだろう。母さんの拳で俺の口の中はまたも血まみれにされたのだ、俺の周囲には、強い女性が多すぎる。
そんな次第でいつものように奈留が迎えに来るまでお家のリビングで待機だ、目の前にはテーブルに肘をつき呆れ顔の明菜、これまたいつも通り。
「というわけで俺はもうすぐ出るんだが、お前は今日部活は無いのか?」
「ふっふふー、お兄ちゃんは心配性だなぁ、そこの時計を御覧なさい、まだ家を出るまで10分以上もありますよ」
「その時計、この前母さんがぶん投げてから微妙に遅れてるぞ」
「あああ! そうだったぁぁぁ! 行ってきまぁぁぁす!」
慌ただしく家を飛び出す明菜、なんだか最近よく見る気がするなぁ。
食器を洗って待っていると、天使の到来を知らせる
「おはようございます、幸也くん」
「おはよう、奈留」
この1か月で慣れ切ったやり取りが気持ちよくて、これから楽しいことが待ち受けているわけではないのに、なんだか胸が高まってしまう。
流れるような仕草で手を繋ぎ、本当の彼女彼氏として、通学路を往く。
6月にしては肌寒いが、雨は降らないようなので助かった。何をさせられるのか知らないが、屋外の仕事を雨天決行は正直しんどいから。
そんなことを思い巡らせていると、奈留がくすくすと小さく笑い始めた。
「どうしたんだ? 思い出し笑い?」
「ううん、なんだか不思議だなって思って。だって幸也くん、ずっと私が嫌々手を繋いでると思ってたんでしょ?」
「そ、れは、まぁそうだな、はっきり言って」
「でしょ? 我ながらよく1か月も気づかなかったなぁ」
「右に同じく」
今にして思えば、どうしてそんな勘違いをしていたのか全くわからない。自分の自己肯定力の低さが招いた悲劇に、眩暈さえ起こしてしまいそうだ。
まあ良い。せっかくだからここで決意表明をしておこう、慈愛の聖母様は俺のことを許してくれたが、それとこれとは話が別だ。
「俺は、奈留に相応しい男になるよ」
「幸也くんこそいきなりどうしたの? 別に今のままでも十分だと思うよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね、でも、流石にこのままじゃダメだと思うんだ」
言葉だけじゃダメなことはわかってるけど、言葉にしないと始まらないから、必死に言葉を手繰り寄せる。
「もっと物事の芯を見極めて、それこそ勘違いなんてしないように、奈留をもう泣かせたりしないように、頑張るよ、俺」
「……うん、そう言う事なら応援する。でも、ちょっと抜けてるくらいじゃないと幸也くんじゃないから、ほどほどにね?」
「それは反応に困るなぁ、まるで俺が普段はポンコツみたいじゃないか」
「付き合うまではそんな印象なかったけど、デート中に突然固まったりするしね」
それは罰ゲームの勘違いの所為で……いや、言い訳はするまい、俺の心が弱いことに違いは無いのだから。
「でも、同じくらいこの1か月で幸也くんの良いところを見せてもらったから……彼女としては、あんまり背伸びしないでゆっくり生きても良いと思うんだけどなぁ」
「突然話のスケールが大きくなったね、というか俺の良いところって具体的には?」
「そ、それを直接聞いてくるあたり、やっぱりいけずだよ、幸也くん」
空いた手で頬を掻き、ちょっと俯き気味に答える奈留を見て、そういう対応をされるから頑張らなきゃって奮起してるんだけどな、と苦笑い。
でもいつかきっと、自分でその答えを見つけて、胸を張って奈留の横を歩けるように――
「そういえば奈留はなんで俺が奈留のこと好きって知ってたんだ? 滲み出てた?」
「ああ、それは春祭りの帰りに、幸也くんが私の事好きって言ってたから」
「それもバれてたのかよぉぉぉ!」
「幸也くん! コンクリートの壁は流石にまずいよ! 誰か! 誰か私の彼氏を止めてくださいぃぃぃ!」
俺の願いが成就するのは、もう少しだけ後のお話――なんてね。
コミュ障の俺のところにクラスの隠れ美少女が罰ゲームで告白しに来たようです……
おしまい。
コミュ障の俺のところにクラスの隠れ美少女が罰ゲームで告白しに来たようです…… オモチミチル @omochi-gohan
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