第31話

 日は陰り、世界は黄昏色に染まりだした。

「おーい、その辺にしておけ」

 少年はいまだに目標を達せていなかった。以前よりも命中率は著しく伸びていたが、それでもやはり連続命中は難題だった。

 負けてられるか。一秒でも早く奴を認めさせてやる。少年はマリオの声を無視して弾を込める。

「やめろと言っているだろうが」

「やだ」

 むすっとした表情で少年は狙いをつけた。マリオは尋ねる。

「何故続けるんだ? 朝日が昇ってからの方が当てやすいだろうに」

「ふん、暗いごときで当てられせんかったら意味ねぇわ」

 この程度のことで根を上げてどうする。少年は引き金を引いた。当たらない。

「お前、銃を使い始めて一週間と経ってないだろう」

「ほんならなんだ」

「いいか。輪郭が不鮮明な相手に当てるのは、慣れた射手ガンマンでも一苦労だ」

「それはお前に才能があらせんでだ」

 二発目、外れ。命中率は再び落ちていた。

「基礎が出来てない奴に応用が出来るわけがない」

「……出来る!」

「やって見せてから言え」

 そういう意味では、少年が出来るとは到底言えない状態だった。

「うるさい、黙っとれ!」

 弾薬箱に手を伸ばす。しかし、指先に冷たい真鍮の感触はなかった。紙箱の中身は空。銃弾を撃ち尽くしてしまっていたのだ。

「なっ、ない!」

「一ヶ月分を数時間で撃ち尽くすとはな」

 弾は当然限りがある。いつまでも当てられなければ、いずれ無くなるのは明白だった。

「銃砲店はもう店じまいだ。今日は諦めるんだな」

「そういうわけにはいかん! おいっ、なんとかしろ!」

 マリオは当然頷かない。彼にそこまで少年に尽くす理由や義理はないのだから。

「今日は休め」

「……けっ」

 いくら喚こうが事態は動かないと観念したのだろう。舌を鳴らした少年は弾のない拳銃をポケットに収めた。

「連れの二人はまだ戻ってない。今日はうちで休むといい」

「は? なんで俺がお前のところで……」

 口答えをしようとした直後、彼の大きな手が少年の肩を掴んだ。

「俺はこの村の守衛だ。うちが嫌なら、歓迎されない客を入れる部屋がある。三六〇度の夜景が見ものだぞ」

 とどのつまり、それは犯罪者用の牢屋である。加えてこの村に頑丈な牢獄を作る余裕はないから、大型の獣を閉じ込めるのに使う檻が代わりだ。背中から撃たれる可能性と比べれば、実に居心地の良い空間だろう。

 少年とて、人生二度目の大脱走は御免だ。

「けっ。特別にそこで我慢したる」

「それでいい。まずは飯だ、ついて来い」

 仇を討つ前に投獄されていてはお話にならない。無力な自分に強い苛立ちを覚えながら、少年はマリオの背を追った。

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リタリエーター ~荒野の復讐者~ 穀潰之熊 @Neet_Bear

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