第15話 エピローグ

あれから1年ちょっとで高認試験に受かることができて、お母さんとは受験票片手に大喜びした。


早希とは、お母さんとの喧嘩のあとすぐに連絡を取って、今まで勝手に理不尽なことで怒っていたことを全部打ち明けた。


すると、「まだ中身は10才だもんね。少しずつレベルアップすれば大丈夫」といつもの調子で許してくれた。優しい言葉に思わず涙が出れば、早希はおろおろし始めてしまって、それはそれで申し訳なかった。


高認試験のことも話したが、自分のことのように喜んでくれてとても嬉しかった。ちなみに、早希も先日無事に司書の資格が取れて、臨時職員という感じだが司書として働き始めたそうだ。


お互い目標を達成できたことに喜び、未だにいい関係を築けていると思う。


お母さんはあれから意中の人とは仲良くしているらしい。紹介してよ、と言ってはいるものの、まだなんとなく踏ん切りはついていないらしく、先送りにされたままだ。


お父さんとはちょこちょこ連絡を取るようになった。私が昏睡状態での離婚再婚だったからか、私からの心象が悪いだろう、とあえて今まで連絡は取らなかったそうだ。


正直まだちょっとお父さんとは打ち解け切れていないが、以前に比べたら誕生日や入学式のときなど、行事があるときは比較的連絡を取り合っているような気がする。


そして私はといえば、今は現役の大学生である。高卒での就活を最初は考えていたものの、お母さんから、「10年分の青春を取り戻してきなさい」とのことで大学に進学することにした。


お金のことは心配だったけど、「そのために働いてきたのだから任せなさい」と言われてしまって、実際私が勉強している間に忙しくなったのはそういうことを考えての行動だったらしい。


(本当にお母さんには頭が上がらない)


そしてさらに1年受験勉強をし、見事に国立の大学に合格することができた。そのときはお母さんだけじゃなくて、お父さんや早希にもお祝いしてもらった。


大学に入ってからは、自分が学びたいことを学べるということがとても楽しかった。毎日が輝いてみえるほどに。


それはお母さんも感じたらしく、日々の私を見て仕事を頑張るぞー!と遅くまで頑張ってくれている。


学費に関しては申し訳なく思いつつも、私の元気な姿が見られることが何よりのお返しだと言ってくれるから、毎日勉学に励んでいる。


ちなみに、私はやはり物語が好きなので文学部の文芸科を専攻していたが、ゼミの教授から「何かとりあえず書いてみたら?」と言われて物語を書いてみることにした。


タイトルは「タイムリープ10YEARS」


主人公は何の変哲もない女の子。彼女は「早く大きくなりたい」と願ったことで、10年後にタイムリープするという話だ。


「持田さんのその話、面白いよね」


PCルームで黙々と執筆作業をしていると、急に声をかけられてドキッとする。顔を上げると同じゼミの加賀見くんがいた。


加賀見くんは同じ3年生だけど、現役で入学しているから、私よりは年下だ。


見た目はチャラくて軟派そうな男の子なのに、実は両親を亡くして奨学金でこの大学に通っていて、日々バイトを掛け持ちして食い矜持を稼いでいるいわゆる苦学生である。


「急に話かけないでよ。びっくりする」

「ごめんごめん。驚かすつもりなかったんだけどさ。思いのほか集中してたんだねー」

「私、何かに没頭すると時間忘れるタイプだから」

「なるほどね。確かによく時間ギリギリまで教室いたり、閉館時間まで図書室いたりするよね」


まさか知られているなんて思わなくて、知られていることになんとなく羞恥心を感じる。


というか、そもそも加賀見くんは他の人に比べてすごく距離が近いというか、私の境遇にも偏見も持たずに「そういう人生もあるよねー」と言って、そこから距離を縮めたような気がする。


「てか、もうすぐPCルーム閉じるって」

「え、そうなの?」

「そうそう、ほらポータルで通知来てたよ。校内清掃入るから、今日は早めに閉めるって」


言われて、彼のスマホに表示されているポータル画面を見せられる。確かにそこには【校内清掃のお知らせ】の通知があった。


「全然知らなかった!」

「ダメだねー。ちゃんと確認せねばならんよ!」

「はは、それ松村教授の真似?」

「似てる?てか、せっかくだし、一緒に帰ろうよ。確か、方向一緒だったよね?」

「えー、急にどうしたの?」

「持田さんとお近づきになりたくて」

「何それ」


冗談なのか本気なのか、私にはまだ判断つくほどの場数は踏んでいない。でも、みんなそれぞれ生い立ちや性格、感情等々人によって違ってそれぞれ表と裏があることはちょっとずつ理解しているつもりだ。


私はPCの電源を落とすと、USBを片付けて席を立つ。


「じゃあ、今日は加賀見くんの奢りね」

「え、マジで一緒に帰ってくれるの?奢る奢る!」

「じょ、冗談だよ!奢ってもらわなくても、私もバイトしてるし。昨日お給料出たばかりだから、せっかくだし何か美味しいものでも食べに行こう」

「やたー。持田さん何食べたい?」

「肉」

「きゃ!肉食系女子?」


はしゃぐ加賀見くんに白い眼差しを向けると、一気に慌て出す。


「うそうそ、ちょ、そういう白い目で見ないでよ」

「はは、うそうそ。さ、行こうか。何か肉の話してたらお腹空いてきた!」


加賀見くんと笑い合いながらPCルームを出る。


(なんだかんだ、毎日楽しいことばかりじゃないけど、生きてて良かった)


そこには10年を失くした麻衣ではなく、10年を新しく築こうとしている麻衣の姿があった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムリープ10years 鳥柄ささみ @sasami8816

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ