第2話

高校生活2日目。青山の朝は遅い。

ゲームのイベントやら何やらで気が付けば徹夜するという何とも不健康な生活を送り続けている。そしてふと机上のデジタル時計に目をやり…


「ヤベェ、盛大にやらかしたァァァァッッ!」


始業時間まであと10分。どう計算しても間に合わないのは確定である。

1人で高校近くの家に来たため、「ほら、起きなさい」等と起こしてくれる親もいない。ましてや一人っ子の為、たまに来る妹とかもいない。

…なお、彼にはアニメだと生粋の妹好きになるという特殊性癖(?)がある。


取り敢えず何か入れておかないと、とあたふたした結果、彼は2枚の食パンを見つけた。

マーガリンを雑に塗ったそれを口に咥え、猛ダッシュで学校へと向かう。その様はまるで少女漫画のアレである。出会い頭に美男子とぶつかるやつ。…この表現は不穏なので止めておく。彼がオンナノコになってしまう。

そうして2分経過。遅刻は免れられ無さそうだ。

・・・・

青山の教室到着を迎えてくれたのは朝のチャイムでも始業のチャイムでもない。女教師の冷やかな目とクラスメートの驚きの目だった。


その女教師は担任だった。職員室前の名簿は粗方把握していたので顔もすぐに一致した。

大雑把にまとめられた髪に長身。そして赤フレームの眼鏡をかけた大人っぽい女性。…まあ、そう言うには出るとこが少しばかり貧、と彼の思考を中断するかのように、


「青山、一応だ。事情位は聴いてやる。入学してからすぐに遅刻とは腑抜けているじゃないか」


と、ため息をつきながら言った。まさか心の声が聴こえていたのか?と思いながら返答する。


「はぁ、重役出勤ですが?」

「君はいつから社長になった…、それに悪びれもなく人を見下すな。私が下のような言い草じゃないか。めっ!」

「いやアラサーの先生がやっても何も効」

「いいから速く座れ馬鹿者ォォォォォ!!」


一瞬、教室が揺れたかのような怒号が飛んで来た。

やはり年齢の話になると女性って羅刹みたくなるんだなぁ、と彼は1つ学んだ。

・・・・

あの口論(SHR中だったらしい)の後、10分間の休憩が与えられた。朝から疲れるとはとんだ災難である。机に突っ伏して仮眠を取ろうとすると聞き覚えのある声が聴こえてきた。


「…翔君、凄い」

「いやいや、やばかったよあそこまで怒らせるのは。あの人筑高の三大女王って呼ばれてるんだし」


そう、戸田と島田である。いつものテンションなので少しばかり心に安らぎを憶えた。


「マジかー、そりゃ災難だな俺もお前らも」

「というか初日とキャラ違くない?どしたの?」

「…徹夜明けでろくにメシ食ってないんだ。だからかもな」

「…不健康」

「うるせっ、それよりお前らの詳しい話聞いてなかったな。入試方式はどんなだった?」


全ての大学付属高校は基本、推薦入試か一般入試のどちらかでしか受験することができない。しかしここだけは違う。推薦入試しかないのだ。しかもAO入試のように自己推薦は無く、国からの推薦によって入学が決まる。

面接と実技しか無いので正直気もラクだ。

しかも学費が安くなると聴いては親は入学させたがる。良いとこづくめだ。


「…私達、同じ中学だったの。その中学は吹奏楽の強豪だったからそこに入学してマキと出会ったの。」

「さっちゃんはパーカッションで私はトロンボーンね。まさか全国大会で金賞とるとは思わなかったよ。で、入試の話だっけ?実技で課題曲渡されて弾けって言われてさ。緊張したよ。そっちは?」

「俺はIQテストを受けさせられたな。しかも普段のテストと差し替えられてた。結果届いたけどまた"計測不能"だったよ」


話を聴いてた2人処かクラス中が呆気にとられていた。その静寂を割るように始業のチャイムが鳴った。

・・・・

1時限目は自己紹介だった。自己紹介は最初の人が一番難しい物だ。至って普通のやつをやろうと青山は試みた。


「初めまして…?いやこんにちは。青山翔です。趣味はゲームです。一番好きなのはストラテジーゲームです。このクラスで過ごす1年間を有意義な物にしていきたいです。宜しくお願いします。」


拍手喝采…とは言わないものの指笛などが聴こえてきた。後で教えてもらおうと思ったほどの指笛だった。こんな感じで後は聞き流せばいい話だ。「ただの人間には興味がありません!!」とか何とか奇抜な発言があればしっかりと記憶に留めておきたいと思った。



そして時は過ぎ、放課後へ…








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アルベルツ・エニグマ 翡翠 @HISUI3310

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