第1話

「見て…あの子」


「凄い、青山君なの!?」


「ちょっとサイン貰ってくるわ」


「お…俺も!」

筑波高校入学式30分前。春風と共にこんな会話が聴こえてくる。新入生も父兄も皆、その"青山君"に注目している。そこにいた全員が隊列を形成し、気付けばそこに恰も花道のような"青山ロード"(以下青道)が完成した。

(おいおい、俺はタ○ラジェンヌじゃねーぞ)

等と張本人は思っていた。

背丈は平均より幾分か高く、容姿も至って平凡。強いて特徴を挙げるとするならきりりとした眉毛といったところだろうか。濃緑色のブレザーにスラックスが似合う所は大学付属高校生に相応しい風格がある。何故この平凡中の平凡男が注目されているのかという理由はただ1つ。"テレビに出る有名人"だからである。彼はタレントなどではない。彼のある才能を生かし番組に出演、一気にブレイクしたのである。その才能とは"地頭力が抜群に高い"ということである。彼のIQは毎年のように測られている。しかしどうやっても結果は等しく"未知数"だった。彼はクイズ番組で《王》処か《超越者》等と持て囃されている。今や彼は注目の的である。

(さて、式辞の方はどうしよっかな)

彼は才能を買われ、この高校に入学した。式辞をやるのも彼が適任なのだろう。

色々考えているうちに下駄箱に着き、教室へと向かった。

□□□□

教室に入るとそこはもうお祭り騒ぎである。

僅か5秒で彼と連絡先交換をする人もいれば、「勉強法を教えて下さい!」とか言いつつもクラス結成会に誘ってくる人もいた。彼自身はちやほやされることには慣れていたので苦ではなかった。騒ぎが一段落して教室の右端の席に座る。と間髪を入れずに誰かが話しかけてきた。声の高さ的に女子だ。しかも2人。1人はセミロングでスラッとしている。背は少し高く、大人しそうな雰囲気だ。

もう1人はおさげで背は小さい。外見を見るに余り喋らなさそうだ。

「はじめまして、青山ショウ君。私は戸田眞紀子。で、こっちの隣の子が島田幸。気軽にマキって呼んで。そういや島田さんってどう呼ばれたい?」「…じゃあさっちゃん、で」

(俺差し置いて会話弾んでんじゃん…、あとさぁ)

という考えは表に出さずに話に入る。


「はじめまして、マキ、さっちゃん。僕の名前はショウじゃなくてカケル。1年間宜しく」


思わず手を前に出してしまった。どうも脊椎反射のようになってしまうらしい。彼女らは驚いた。2つの意味で。


「え?カケル?」 「…嘘、テレビだとそれになってる」


「嘘じゃないよ。よくナレーターが読み間違うだけ。まぁ今や慣れちゃったけどね。」


「そう、なんだ…改めて宜しく、カケル君」


「…あ、あの」


「青山。青山翔君は居ますかー」


島田が何か言おうとしたが生徒会役員らしき生徒に呼ばれた。

「式辞のリハーサルを行います。速やかに第一体育館へ。」


「分かりました。今行きます。それじゃあ2人共、また後で」


「うん。式辞楽しみにしてるよ」


「…頑張って」


青山が教室を後にするとこんな会話が聴こえてきた。

「残念だったねー、コクれなくて」


「うるさい、バカ」

島田の顔は紅潮していた。

□□□□

式辞も無事に終わり、気付けば昼下がり。

完璧すぎて校長訓話の出る幕が無くなってしまうという伝説を創ってしまった。後世に語られてしまいそうだ。

青山の家方面には同級生がいない。なので1人。歩いて20分位するとすぐに着く。地元から引っ越してきたのでこういうのは利点である。

安らぎの場に到着した彼は今日の事を脳内で振り返っていた。

(クラスメートは最高だったな。俺に物怖じしないし。というより島、いやさっちゃんは何を言いかけた?あ、そうだ。手出したのに握らなかったな。いやいや、それ語弊。つまりアイドル以下って事か。ハァー疲れた)

人物評価やら何やらを脳内のみで処理する所は流石である。

「さて、ゲームの時間だ」

パソコンの前に腰掛け、画面を開く。

こうして天才の夜は更けていった。

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