凱旋門をフランスパンで造らないで下さい

緋色 刹那

第1話

 冬休みを利用し、俺と友人(男)は2人でフランス旅行に来た。友人がくじ引きで「フランス旅行ペアご招待券」を当てたのだ。

 友人には彼女がいない。気になっている女子はいるが、話したこともない。俺も同様だった。結果、チケットはムサい男2人の友情を高めるために使われることとなった。

 とはいえ、来年からは就職活動で忙しくなる。友人とは希望する職種が異なるため、卒業すれば離れ離れになるだろう。

 これが友人との最後の思い出になるかもしれないと思うと、少し寂しかった。


「せっかくフランスに来たんだから、凱旋門は見ておかないと」

「だよねー!」

 空港に降り立ち、俺達はさっそく凱旋門に向かった。

 特にフランスに詳しくない俺達のフランスに対する知識は、観光客程度で、とりあえず「目ぼしい観光地は回っておくか」と決めていた。

 だが、凱旋門は腐っていた。

 正確には、凱旋門の内部構造に組み込まれていたフランスパンが腐敗し、崩れ落ちていた。

 周囲は得も言われぬ臭いが立ち込め、凱旋門に近づくことはおろか、この場に留まることすらはばかれた。

「い、一旦離れよう!」

 


 テレビでは連日、凱旋門がフランスパンで出来ていたニュースが報道されていた。

『凱旋門、実はフランスパンで出来ていた!』

『建設費用を節約するため?!』

『パン職人達の非難殺到!』

 それは衝撃的なニュースだったが、被害は凱旋門に止まらなかった。

 翌日にはエッフェル塔が、そのまた翌日にはモンサンミッシェルが次々にフランスパンへと変わり、世間をざわつかせた。

 そのうち、「自分の家もフランスパンで出来ているのではないか?」と不安の声が高まり、調査を依頼する住人があとを絶たなくなった。

 俺達の泊まっているホテルも調査されたが、フランスパンで出来てはいなかった。

 しかし安心したのも束の間、俺は鼻をつく酸っぱい臭いで飛び起きた。ホテルが一夜にして腐ったフランスパンに変わっていたのだ。

 これはおかしい……そう思っていると、国連がとんでもない発表をした。

『突如発覚した、“建造物腐乱フランスパン化事件”……これは全て、何者かが過去の時代へ干渉したことが原因で起こった、テロです』

 一緒にテレビを見ていた友人は「本気かよ」と笑い、俺も半信半疑でニュースを見ていた。

 翌日、日本に帰って自宅に戻ってくると、日本政府から送られてきた封書がポストに投函されていた。

 中には『タイムマシン適合のお知らせ』と題された書類が入っていた。実は複数の国が合同でタイムマシンを完成させていて、それを使って過去へエージェントを送り込み、正しい歴史に戻そうとしているらしい。俺はそのエージェントに選ばれてしまったようだ。

 『拒否すれば、タイムマシンの記憶を消去する』とあったので、仕方なくエージェントとして過去に行くことにした。こんな面白いことを忘れちまうなんて、もったいないからな。

 エージェントには友人も選ばれていた。

「またフランスに行けるなんてな」

「あぁ。過去を修正して、元の凱旋門を見に行こうぜ」

 過去へ飛び、隠密的に捜査するうちに、俺達は過去を変えた張本人を突き止めた。

「動くな! お前が未来を変えた、テロリストだな?!」

 友人と2人で犯人の元へ押しかけると、そこには友人そっくりの人間がいた。

 友人は何が何だか分からず困惑していたが、向こうは動じることなく、懐かしそうに俺達を見ていた。

「な、なんでお前が2人もいるんだよ?!」

「俺だって分かんねぇよ!」

「……久しぶりだな、タカシ。もう一度お前に会えるなんて、思ってもいなかった」

 友人そっくりの犯人は「トモヤ」と名乗った。友人と同じ名前だった。

「俺は正真正銘、未来のお前だよ。あのフランス旅行に行った日……俺とタカシは凱旋門の近くで車の事故にあった。そのせいでタカシは死んだ。すぐにあの場を立ち去っていれば、回避出来たのに。俺は凱旋門をフランスで作らせ、腐った臭いで止まらせないようにしたのさ。さぁ、俺。俺も一緒に来い。タカシを守るために」

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凱旋門をフランスパンで造らないで下さい 緋色 刹那 @kodiacbear

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