第5話 始まり

ボーンボーン

いつの間にか船の中で寝ていた私はお腹の中にまで響いてくるような音で目が覚めた。

「あ、もう着いたのか」

船はもう祖母の家がある島についていた。

荷物を持ち急いで船を降りる。

空は…すっかり晴れていた。

橋が閉鎖されるほどの台風が近づいていると聞いたので変な感じがした。

重たい荷物を一度地べたに置き、島についたことメールで父に報告した。

携帯をバックの中にしまおうとした時、母のカメラに目がいった。

私はなにも考えず母のカメラを革のバッグごと首にぶら下げた。

辺りを見渡していると父から返信があった。

『乗り場から南に600メートルくらい離れた駅に20分後に梅守り神社行きの電車が来るからそれに乗りなさい。

電車を降りたらお婆ちゃん達が待ってると思う。ちゃんとご挨拶しろよ。頑張って』

「いや、南ってどっちだよ…」

父さんは肝心なところが抜けている。

周りを見渡し駅まで一直線と書かれた看板を見つけた私は「わかってる」と独り言を吐き、駅へ向かった。

電車が来るまでなにをしようかと悩みながら駅への一本道を歩いた。

右手には海、左手にはすぐそこに山がある。

ちょっぴり上り坂の細道。

風に揺られ木の影は形を変えながら私を包み込む。

容赦のない日は海に反射しこちらを照らす。

そんな時ぐぅーーとお腹がなった。

私は駅に着くやいなや、すぐさま父が作ってくれた弁当を食べた。

全く味付けのない料理だったがこれを少しの間食べられないと考えたら悲しい気持ちになった。

弁当を食べた後も暇な時間は続いた。

ふぅーと息を吐きながらうずくまる。

そのとき遠くから電車の音が聞こえた。

電車は東京で見るものよりオンボロでレトロな感じがした。

それに都会とは違って黄色い線まで下がってくださいみたいな放送もないことに驚いたと同時に田舎暮らしに不安を感じた。


ガタンゴトンガタンゴトン

イヤホンには乾いたギターの音。

揺れる体。

巻き戻るはずのなかった時計。

不安になり振り返りたくなるが振り返るほど進んでないことを実感する。

曲と曲が切り替わる間の無音の時間。

私はただ。

もらったヘアゴムを握っていた。

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青空の美しさを私たちはまだ知らない アケローン川出身大猫 @Arukarininjin

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