スマホを使う陰陽師!?

牛☆大権現

第1話

「許可なく、我が神域に踏み込むとは。無礼なるぞ、人間」


我は、無謀にも神域に入足した、愚物を睥睨(へいげい)する。

常人ならば、恐怖のあまり、自ら心の臓を止めかねない、我が神気(しんき)。


それを浴びて尚、男は涼やかな表情を保っていた。


「入足、畏れ入ります。けれども、更なるご無礼をお許しくださいませ」


その人間は、あろうことか、我に攻撃を仕掛けてくる。

我は、飛来する炎を、水の壁で受け止める。


「ほう、貴様は陰陽師か。しかし、たかが人間が、神に単独で勝てるなどと。思い上がりも甚だしいな」


我は水神、五行の相性では火に克つは道理。

基本すらなっていない、愚かな術師だ。


我は、せめてもの慈悲とばかりに。

水塊で術師の頭を覆い、溺れさせて気絶させようとしたが……


「調査通り、あなたは水神のようですね。喜ばしい」


何かが飛んでくる。

直感的にそれを察知して、作った水塊で防御する。

けれども、それは水の盾をすり抜けて、我が身体に当たった。


「グガァッ……まさか、これは雷か!? 」

「いかにも、まだまだ撃てますよ」


我は、体内の水を神気で操り、痺れた身体を無理矢理動かす。


「バカな! 雷は五行に含まれぬ例外、 陰陽師に操れる筈がない! 」

「あなたの知る、古い技術体系では無いと言う事ですよ」


奴の手をよく見ると、四角い鉄の塊が、握られていた。

符の類いとばかり思っていたが、それでは理屈に合わない。

あれはなんだ……?

得体の知れない道具に、恐怖すら感じる。


「よく、我が身体に傷をつけた。 だが、その代償は高くつくと知れ! 」


狙いを定められないよう、高速で飛翔しつつ、圧縮した水を撃ち出す。

山をも切り崩す一撃、人には防げまい。

そう、考えていたのだが……


「土克水、陰陽道の基本ですね」


奴は、土の壁を産み出し、背後からの一撃を凌いでみせた。

濃密な土気が籠められたこの壁は、相性の悪い我が神気では貫けぬ。


しかし、真に恐るべきは、術の速さ。

我の知る陰陽術とは、比較にならぬ速度で、術を展開してくる。


「貴様、何故それほど速い! 」

「従来の陰陽術は、世界と言うシステムへの実行コマンドを、手動でプログラミングしていた。PCの開発により、簡単なコマンドを組み合わせる事で、大幅に儀式を省略できるようになったのです……と言っても、分からないでしょうが」


確かに、何を言っているのかよく分からん……

よく分からんが、儀式を省略できる何かを手に入れた事だけは、確かなようだ。


「理解出来んが、それと貴様が我を調伏出来るかは別よ。流石の貴様とて、これは防げまい!」


雨雲を招来し、雨を降らせる。

この街を沈めれば、土の壁など意味を成さない。

我が社(やしろ)も沈むが、人ごときに負けるよりかは、何倍もマシだ。


「土の中に閉じ籠り、即身仏となるか。我が水の中で溺れ死ぬか。好きな方を、選ばせてやろう! 」

「判断を、誤りましたね。頭上を見てください」


そのような手にはかかるか。

追い詰められた人間は、かくも愚かな虚言にを弄する……

待て、この音はまさか!


「気付きましたね、でももう遅い! 」


身体中に、衝撃が疾(はし)る。

墜ちていく最中(さなか)、空を見上げると、雲の間に稲光を確認する。


そうか、我が招請(しょうせい)した雲を利用し、雷を落としたのか。


「……殺すなら、迅くせよ。回復したら、即座に殺しにかかるぞ? 」

「嫌です、勿体無い。我が式となりて、命(めい)に従え、急々如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)」


光の輪が、我が身体を包み、拘束する。


「貴様、なんのつもりだ? 」

「スマホのプログラミングを利用する、最新の術式。この体系は水の気に弱い……だから、あなたを使役して、その弱点を補う必要があったのです」


悔しいが、契約で縛られた今、反抗は不可能のようだ。


「……精々今は勝ち誇っておけ。殺さなかった事を、後悔させてやる。」


いつか、必ず隙をついて、この身の程知らずを、殺してやる。


「口での反抗位は、許してあげましょう」


男は微笑み、我が身体を持ち上げる。

これが、我と主との出会いだった。

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スマホを使う陰陽師!? 牛☆大権現 @gyustar1997

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