内緒にしたこと、
@nonnames
第1話
2年前、私は初恋をした。まだ中学に入ったばかりで関係にも悩みに悩んでいた時だった。ずっと続けていた水泳のチームで、ひとつ上の先輩。
見てるだけの関係が終わったのは8月某日の練習会のことだった。
「ねぇ、俺の靴とってくれない?」
もちろん、目線の先にいた私が返事をする。
「はいっ、これだよね」
いつも履いてる靴を知った上で、わざと違う靴を差し出す。会話の糸口になれば、何だってよかった。
「ちがうちがう、その隣のやつ」
右隣の靴を取って手渡す。
「さんきゅ。次メニュー何?」
思わぬところでの話題転換だった。会話を続けたいと思ってるのが自分だけじゃなかったことに内心、にやけながら喜ぶ。
「次はー、たしか50フリーの100本だったはず」
「何秒でまわんの?」
「多分50とか、だと思うけど」
コーチの考えたメニューは軽く言って地獄だ。
「きっついな、がんばれよ」
「はいよー」
そんな会話を繰り返すうちに、いつの間にかバスでは隣に座る関係になっていた。
ただ、隣に居ることがしあわせだった。
忘れもしない、新年大会の帰りのバスでの出来事。
お互いに話すことがなく時間をもてあましているときだった。
「これ、聞いてみてよ。ほい」
イヤホンを片方だけ差し出す手をみて、
「ははっ、絶対なんちゃってーのパターンだー」
と、緊張した笑みで返した。
「なんでだよ、ほら、聞いてみろって」
手の中にイヤホンを収められ思わず赤くなる。
それは、私の好きなアーティストの曲をラップ風にアレンジしたものだった。
聞いていると、先輩は検索欄に何かを打ち始めた。
『好きな人、誰』
ん、といって手渡されるスマートフォンの検索欄に返事を打ち込む。これで会話を続けた。
『好きな人か、いいたくないな』
『は?なんでだよー』
『いやいや、ゆうすけこそあの子と別れたの?』
『別れたって言わなかったっけ』
『いったけど、信じがたくて』
『ほんとだよ、今はちゃんと好きな人いるし』
『ほんと?だれだれ?』
『そっちがゆったら言うわ』
『えー、ゆうすけだってゆったら?』
『うん』
『うんってなにーーー!』
『だから、うん』
『え、どゆこと?』
『それなら付き合おうってこと』
『え、やったぁ』
『よろしく』
『はい』
これで私たちの関係に終止符が打たれた。
新しい関係の名前は、恋人だった。そして、これは私の初恋でもあった。
恋愛は2ヶ月で終了の鐘を鳴らすこととなる。
あっけない終わりは、案外私の心に傷を残していった。
本気で好きだった。初めての彼氏だった。
初恋だった。にやにやして、みんなにからかわれる日々が楽しくて仕方なかったりして、私は夜、少しだけ泣いてしまった。
それから、空白の恋愛が続く。
好きでもなんでもない相手と付き合って、ゆうにそれは20人を超えていたと思う。
後悔するのはわかっていても、傷を癒して欲しさに求めてしまった。
内緒にしたこと、 @nonnames
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