第3話 宙に浮くナイフの行方
「小早川、ナイフの材質はなんだ?」
「え、なんでしょうかね。スキャナーを使って、形は再現しましたが、材質まではちょっと」
むしろ鑑識の力を借りて、高性能な機械で材質を特定しろよ!!
瓶は透明。
ナイフは白い。
でもな、色が違うから、材質も違うということにはならないんだよ。
「その瓶の材質は樹脂だ。もちろん、中のナイフもな」
「え、もちろんそうですよ。3Dプリンターで再現したんですから」
「いやいやいやいや、違う! 被害者が握っていたナイフ入りの瓶は、3Dプリンターで作られたものだったんだ!」
俺は、3コンボを受けてケロッとしているナイフ入りの瓶を小早川に見せた。
瓶ならば割れているかヒビが入っている。が、樹脂製なので重量も大したことがない。高いところから落としてもビクともしなかった。
「瓶の材質がビンだったらおかしいことは他にもある。見てみろ、瓶の内側にささくれが見えるだろ。ガラスビンにささくれなんて出来るはずがないだろう」
「じゃあ先輩は、どうやって瓶の中にナイフを入れたって言うんですか?」
「簡単な話だ。瓶の中に入ったナイフごと、まるっとそのまま3Dプリンターで作製したんだ」
ナイフはナイフのみ製作し、それを使って被害者を殺害、それと全く同じ形のナイフを瓶の中に入れた状態で作製した。
被害者の殺害に使ったナイフは同じく樹脂製なのだから、細かく切り刻んで証拠隠滅したんだろう。
その後、瓶の中のナイフに被害者の血液を垂らしてやれば、凶器が瓶の密室に閉じ込められた、不可解な状況が完成する。
「つまり、瓶はナイフと共に、被害者の殺害より前に作られたものだったんだ」
「被害者の指紋はどう説明するんですか? 指紋が刻まれていたんですよ?」
「文字通り、刻まれていたんだろう? 被害者が掴んだような形の指紋ごと、3Dプリンターで製作したものだったのさ」
「なんでもありじゃないですか!」
なんでもありなのだからしょうがない。あとは、その製作に使ったデータでも見つかれば、犯人を逮捕できる。
「お前の推理には穴が空いてるぞ。ヒビどころじゃない。決定的な穴がな……」
まったく、お前のせいで頭にヒビが入ったらどうしてくれる、と件田が話に割り込んできた。ヒビどころか、穴が空いてしまえばよかったのに。
「決定的な穴? 何がだ?」
「髭宮、お前の言う通りに3Dプリンターで製作してみろよ。どうやって瓶の中にナイフを印刷するんだ? プリンターで、瓶の中にナイフを印刷すると、もちろんナイフは瓶の中にくっついた状態で印刷されるよな?」
ん??
「そうですよ! この瓶の中のナイフは、瓶とナイフが分かれています! 瓶の空中に浮いた形でナイフを印刷することはできないっス!」
小早川は瓶をガッチャンガッチャン振って、瓶とナイフが分かれたパーツであることを証明してくる。
だから、大事な証拠品を振るなって。
動かすのをやめると、ナイフは瓶の底にピッタリと横たわってしまった。
瓶の底にナイフがピッタリとくっついた状態で印刷してしまうことになるのか。
「3Dプリンターは、樹脂を使って様々な形を作る。瓶もナイフも、被害者の指紋だって作るだろうさ。だが、それぞれ分かれたパーツを内包する形で印刷するなんて、不可能だ。つまり、このナイフはどうにかして、瓶を作り出した後に入れられたということだ」
どうにかしてって、それがわからないからこうして悩んでいるんじゃないか。
そこで、俺は閃いた。
以前、冴樹嬢に文鎮をぶつけられた頚椎にビビッと電流が走る。
瓶の内側についた大小様々な傷……、
瓶の内側に残ったささくれ…….、
それぞれ分かれたパーツを印刷できない……、
なるほどな……。
「密室の謎に、ヒビを入れたのは、俺のようだ」
頭でもぶつけたか? と件田。
ナイフでも飲んじゃいましたか? と小早川。
小早川の頭をはたいて、俺は続けた。
今度こそ本当の、解決編だ。
つづく
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