1-5
体が鉛のように重い。次々と想像を超えるような出来事が起こりすぎたからだろうか。
一歩も動けないでいるウェントワースの隣で、レナードは天気の話をするかのような調子で口を開いた。
「――ところで、何故君は罪の意識を感じていたのだろう。ええ? ウェントワース。あれは事故だったんじゃないのか」
あれだけ注意を払っていたのに、油断していた。ぎしぎしと音が出るような速度で、ウェントワースは横合いに顔を向けた。
そこにあったのは、先程までの張り付けたような笑顔ではなく、こちらに冷ややかな視線を送るレナードの姿だった。レナードは続ける。
「君は、あの時わざと僕の足を踏み抜いた。そうだろう?」
「……」
ウェントワースは、耳の奥でどくどくと心臓が脈打つのを感じながら、震えた拳を白くなるまで握りしめた。
そうだ、と認めるのが怖かった。
同級生を自らの意思で傷つけたことが恐ろしく、良心の呵責にもがいた。彼のことを悪魔だと評したが、誰がどう見ても、悪魔は自分の方が相応しかった。
「――本、当は……」
うまく言葉が継げなかった。それを伝える勇気も、覚悟も、無かったからだ。その様子にレナードは瞬きをひとつすると、少し気後れしたように話し始めた。
「……君が、クラスメイトから嫌がらせを受けていたことを知っている。すぐに止めるだろうと思っていたんだ。奴らは飽きっぽいからな。……助けるべきだった、悪かったよ」
「――」
言いたいことが決まった。
松葉杖を動かして、去ろうとする背中にウェントワースは叫んだ。
「もう、危険なことはしないでくれ!」
彼を心配する権利は自分には無い。
その矛盾を笑うかのように、レナードは口の端を上げるとこう返した。
「その時は君を連れて行くさ、ウェントワース。付いてくるだろう?」
その答えに驚いたように目を瞠らせた後、ウェントワースは泣きそうになりながら頷いた。
「ああ、また冒険に行こう。……レナード」
その後、残された犬達の所在についてだが。
ウェントワース等の協力のもとそれぞれが新しい家族を得て、幸せに暮らしているという。
獣の葬列 小野 玉章 @Riisu
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